2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K23156
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
村尾 太久 京都大学, 法学研究科, 特定助教 (80849563)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | フランス / 法理学 / フランソワ・ジェニー / 科学学派 / 連帯主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度において本研究課題にかかる一番の目的は、フランソワ・ジェニーやレオン・デュギーらの法学者によって20世紀初頭になされた法理論としての体系化に際して、核となる概念としてしばしば強調される科学(science)の概念を明らかにすることであった。この目的に沿って、まず、ジェニーの法理論における「科学主義」ないしは「科学的」の意味を、19世期末に新哲学の論争に用いられた概念との対応関係を示しながら明らかにし、次いで、デュギーの連帯主義の議論における「実証主義」ないしは「実証的」の意味を、デュルケムの法社会学理論との関係で明らかにした。その上で、両者は、理論化の過程で、これまでの形式論理主義や形而上学的基礎づけのどちらにも批判的な立場から「実際の社会的必要」を足掛かりとするという点では一致するものの、その核概念としての「科学的」と「実証的」の用い方には大きな差異があることを明らかにした。さらに、先行研究の多い英独の法理学で用いられる「法実証主義」の語と、フランスにおいて用いられる「(法)実証主義」の意味の相違を踏まえた上で、それらの概念整理を試みた。 社会学や哲学、言語学といった隣接分野の議論動向から多分な影響を受けて、体系化されたジェニーらの法理論は、同時に、裁判過程において、制定法たる民法の条文がどの様に解釈・適用されるかという実践的関心が強かったことも注目に値する。それらは、当時、法理論の体系化や論争に参加した多くの実定私法学者が、実際の条文の解釈を論点としていることからも容易に例証しうる。今年度の理論的・概念的な研究成果を土台として、ジェニーが「技術」として提示する法の実定法化のプロセスを、実際に論争点として触れられている条文や判例の動向を題材としてさらに検討することが、今後予定する展開である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本科研費にかかる研究課題の背景として、申請者は京都大学の博士課程在籍中より、フランスの近代法期以後から1930年代を時代的区分として、また、1804年に成立したフランス民法典を実定法上の考察の対象として、実定法、法理論、法学方法論とそれぞれの関係についての研究を行ってきた。その中で、フランスにおける一般法理論ないしは法思想について、大陸法諸国との関係で、一番の特徴をもつフランソワ・ジェニーの法理論を特に考察の対象として扱い、博士論文として上記のテーマで執筆し、学位取得した。 本科研費採択後は、それらの研究の内容を、これまで学問領域として蓄積の多い英米独を対象としてなされてきた法哲学の先行研究との相関を意識して、すなわち、それらの分析に用いられる軸と関連づける形で、フランスにおける法哲学ないしは法思想をどのように特徴づけられるかという視点から、「科学」や「実証主義」、「構成」といった諸概念に焦点を当てて、議論を整理・分析を試みている。今年度任期中に、その成果として、昨年度9月に、「フランソワ・ジェニーの法理論の一側面―「法技術」についての議論を手掛かりに」というテーマで研究会報告を行ったほか、12月に「フランソワ・ジェニーの法理論における『科学(la science)』についての一考察」と題した論文を提出し、今年度中に公表予定である。前者は、フランスにおける「法」と「実定法」の関係が「構成」の概念によって説明される過程を、当時のフランスの学説や判例、立法の実例に即して紹介するという趣旨の報告であり、後者は、「法」の理論化に際して、提要としてジェニーが用いる「科学」の概念をフランス哲学上の特色と相関させて説明を試みるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、フランスの20世紀初頭における一般法理論、法的思考の領域で、さらに実践的な関心に拡張した研究を行う。具体的な研究課題としては、A)フランス民法典の条文適用の実際を素材として、より実践的な関心に重心をおいたフランス法理論の説明、B)1940年代以降になされたフランソワ・ジェニーやその周辺についての評価の検討、である。 〈研究の計画〉 今年度の研究計画として、博士論文で既に執筆した後半部分を土台とし、昨年度の9月に行った「構成」のプロセスをフランスの学説や判例・立法に即して紹介した学会報告をさらに発展させたうえで、論文の執筆を予定している。その成果の一部を、来年度11月の日本法哲学会学会報告、さらに同学会誌の掲載論文として公表する予定である。 〈研究の方法〉 昨年度の9月以降に研究に必要な文献の大部分を収集しているため、基本的にそれらの文献を通じて研究を進める。また、実定法(民法・フランス民法)の視点から研究内容をフィードバックするという趣旨で、できる限り同研究機関所属の実定法研究者の先生方から助言を頂いたり、研究会での報告を通じて研究方向を随時修正するよう努める。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、年度末(2月頃)に予定していた研究会出席のための出張が、研究会自体の開催が、新型コロナウイルス蔓延の影響によって延期や中止によって取りやめになったためである。繰越額は今年度の国内出張費・書籍購入費に充てる予定である。
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Research Products
(3 results)