2019 Fiscal Year Research-status Report
高齢化社会における教育・引退選択が経済成長に与える影響に関する研究
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19K23204
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Research Institution | Nishogakusha University |
Principal Investigator |
森本 貴陽 二松學舍大學, 国際政治経済学部, 講師 (40851663)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 経済成長 / 研究開発 / 教育選択 / 引退選択 / 高齢化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,個人の教育・引退選択を組み込んだ内生成長モデルを構築し,高齢化が経済に与える影響を明らかにすることを目的としている.高齢化に直面している国は先進国であり,そこでは研究開発(R&D)による技術革新が経済成長の主要因になっている.そのため,本研究でも経済成長の主要因としてR&Dを組込んでいる.教育を受けた技能労働者は,生産活動とR&Dの両方に従事することが出来る一方,教育を受けなかった単純労働者は,生産活動にのみ従事する. 教育費用を支払っている分,技能労働者の方が長く働き所得を得続ける誘因が強い.そのため,技能労働者の引退は,単純労働者に比べて遅い.期待寿命の延伸は,余生の増加であり,その分,引退時点で蓄えておくべき資産の増加を意味する.そのため,全ての労働者が引退を遅らせる.また,高齢化により,若年世代と比べて資産を多く保有している老年世代が増加するため,資産供給が増加し,利子率が低下する.利子率の低下は,借入を容易にし,教育費用を低下させる.技能労働者の引退が遅い原因である教育費用が低下するため,高齢化には技能労働者の引退を早める効果もある.その結果,高齢化により,単純労働者の方が引退時期を大きく延長し,労働者間の引退時期の差が縮小することが明らかになった. 技能労働者は教育を受けている分,高い賃金を得ている.反対に,単純労働者は教育費用を支払っていない分,長く労働供給をする誘因が低く,早期に引退し余暇を楽しむことができる.期待寿命の延伸により,引退時期の差が縮小すると,早期に引退できるという単純労働者の魅力が低下する.その結果,技能労働者になる個人が増加することが分かった.また,引退延期により,労働供給自体が増加するため,賃金が低下する.これにより,生産費用が低下するため,高齢化に伴い,経済全体で生産に投入される資源が増加することも明らかになった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,理論モデルを構築し解析的な解を得ること,また数値計算により高齢化の影響を分析することを目標としている.現段階で,理論モデルの構築は完了しており,数値例による分析もある程度進めている.当初は,財の種類の増加(水平方向)と品質改善(垂直方向)の2方向のR&Dモデルを用いる予定であった.このモデルを用いることで,人口が変化する設定の下,死亡率や出生率などのパラメータの変化が経済成長に与える影響を分析することができると考えたからである.しかし,実際にモデルを構築し分析を行うと,高齢化は,人口成長率の変化を通じてのみ,経済成長率に影響を与えることが分かった.これは,より単純な水平方向のみのR&Dモデルと同様である.この結果を受け,明瞭な直観を得るために,より単純な水平方向のR&Dモデルに変更した.しかし,高齢化そのものは経済成長に影響与えないという問題点が残っている.そのため,現在のモデルには改善の余地がある.しかし,改善の余地があるとは言え,モデルの構築が完了しているため,おおむね順調であると言える.
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Strategy for Future Research Activity |
現在のモデルでは,高齢化は人口成長率の変化を通じてのみ経済成長率に影響を与えるため,高齢化そのものと経済成長の関係を分析できない.今後は,いくつかのR&Dに関する研究を調査し,そのモデルを現在の研究に適用することが出来ないか検討する.それにより,高齢化が経済成長に与える影響について分析が可能なモデルの構築を試みる.一方,R&Dモデルを用いて,高齢化そのものが経済成長に与える影響を分析することが難しいと判断した場合は,現行のモデルにおいて,高齢化が経済成長率以外の要素に与える影響について子細に分析を行う.また,関連研究を調査する際に,数値計算のためのパラメータに関しての情報収集も同時並行する予定である.年度内に,結果をまとめ,論文を執筆して,国際雑誌に投稿することを目標とする.
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Causes of Carryover |
残額が少なかったため,使途がなかった.次年度予算と合わせて,研究に必要な書籍の購入や研究会参加のための出張費等に充てる.
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