2020 Fiscal Year Research-status Report
アビトゥーア試験問題における能力観とコンピテンシーに関する研究
Project/Area Number |
19K23335
|
Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
雨宮 沙織 東京学芸大学, 次世代教育研究推進機構, 助教 (90849077)
|
Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2022-03-31
|
Keywords | コンピテンシー / ドイツ / フンボルト / ビルドゥング(Bildung) / 言語 / OECD / ウィルビーイング / エージェンシー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,ドイツにおけるコンピテンシーに基づいた教育改革の具体的な動向について検討するために,アビトゥーアに着目し,アビトゥーアをめぐる歴史的背景や能力観の変容過程,教育政策の動向,試験問題等を総合的に調査・分析することによって,ドイツにおける能力観と,試験におけるコンピテンシー概念の具体化のあり方を示すことを目的としている。 2020年度は,主としてドイツにおける能力観に関連し,コンピテンシーと関わりのある概念に関する調査に焦点を絞った。具体的には,1)ドイツにおけるビルドゥング(Bildung)概念 2)OECD におけるコンピテンシー概念をめぐる議論の動向について検討を行った。 1)について,昨年度の調査によって,ドイツでのコンピテンシーに関する議論は,ビルドゥング概念との関わりにおいて語られる傾向にあるということが明らかとなったことから,ビルドゥング概念の歴史的・思想的側面に関して検討を行った。その際特に,ビルドゥング概念がドイツの思想史における重要概念として扱われるようになる経緯に携わった重要人物の一人である,ヴィルヘルム・フォン・フンボルトの思想分析を行った。その結果,コンピテンシーとビルドゥングを考える上では,人間の能力という側面のみに焦点を当てるのでなく,言語という側面にも注意を払う必要があるのではないかという着想に至った。 また,2)について,1990年代後半よりOECDのDeSeCoプロジェクトにおいて行われたコンピテンシーの整理,および2015年よりOECD Future of Education and Skills2030において行われている議論の変遷を通じて,近年の議論において,コンピテンシーがその周辺概念としてのエージェンシー,ウェルビーイングといった概念と共に考えられていく過程について示した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究を進めていく中で,コンピテンシーに関する議論を扱う上では,概念上の整理やコンピテンシーと関わる様々なトピックとの関連性について検討していく必要があると考え,昨年度はその部分に焦点を絞り研究を進めたが,当初の予定における試験問題の具体的な分析が進まなかったため,達成度としては,3)やや遅れているとした。
|
Strategy for Future Research Activity |
ここまでの研究を通じて,コンピテンシー概念の背景や概念相互の関連性について検討を進める中で,コンピテンシー概念のもつ複雑さや,その背後にある文脈を考慮することの重要性が分かってきた。そのため,現段階においては,当初予定していた,アビトゥーア試験問題の分析を通じた,コンピテンシーの具体化のあり方について示すという研究課題まで達することが,困難であると考える。 そこで,今後の方策としては,ドイツにおけるコンピテンシーの議論を把握する上で特に重要だと思われる,ビルドゥング概念に思想的系譜,そしてこの概念とコンピテンシーとの関連性という部分に的を絞り,研究を進めていきたい。具体的には,引き続き,ヴィルヘルム・フォン・フンボルトの思想を軸として,ドイツで歴史的に形成されてきた,思想的・理念的基盤について検討しつつ,それらが現代において言語や能力,試験といった側面とどのように関連づけられているのか/いないのかについて,整理・分析を進めていきたい。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の影響により,渡航が制限されたため,旅費として申請していた経費を物品費・書籍購入費として利用した。分析を進めていく中で,関連文献・必要文献が増えていることから,引き続き書籍・物品費として使用することを計画している。
|
Research Products
(2 results)