2019 Fiscal Year Research-status Report
戦前から戦後の日本の教養教育 ー高等普通教育による一般教育への影響ー
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19K23349
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Research Institution | The Graduate School of Information & Communication |
Principal Investigator |
吉岡 三重子 社会情報大学院大学, 先端教育研究所, 助教 (80844919)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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Keywords | 教養教育 / 高等教育 / 教育史 / 教育制度 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、戦後の新制大学において、戦前の高等普通教育とは異なる新しい教育として導入されたはずの一般教育が、結果として高等普通教育と共通した課題を抱えていた事実とその要因を解明することを目的としている。新制大学で新たに導入された一般教育は、米国の教育をモデルとして新しく導入したとされてきたが、戦前の旧制高等学校や大学予科を改編した組織によって担当された。また、戦前の高等普通教育と同様に専門教育と対義的に捉えられ、新制大学の前期2年の教育として位置づけられていた。にもかかわらず、一般教育は戦前の高等普通教育と異なるものとして設定された。本研究は、一般教育が、結果として戦前の高等普通教育と共通した課題を抱えることとなった点に着目し、高等普通教育と同様にその設置当初から課題とされてきた経緯を明らかにし、その解決の一助とすることを目指している。 1年目の当該年度においては、戦後の高等学校や大学予科の廃止および統合に関する改革論議の整理を課題とした。具体的には、第1次米国教育使節団来日前後に発足し、戦後教育改革に関する審議を行った「日本ノ教育家」委員会や教育刷新委員会、また大学基準協会設置前後の議論の検討を課題としたが、実際には先行研究の検討を進めながら教育刷新委員会や教育指導者講習(IFEL)等の史料分析を行い、戦後の新制大学で導入された一般教育がどのように理解され、また受容されていたのかについての検討を進めた。教育指導者講習(IFEL)については当初は検討対象としていなかったが、同講習に一般教育に関する講座が設定され、各大学で一般教育を担当する教員がそれに参加し、新設された一般教育に関する現状の課題等が議論されていた。一般教育が新たに設定された背景や経緯を明らかにするうえで有益な史料であり、重点的に検討することに意義があったと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者は、当該年度において、戦後の高等学校や大学予科の廃止および統合に関する改革論議の整理として、具体的には第1次米国教育使節団来日前後に発足し、戦後教育改革に関する審議を行った「日本ノ教育家」委員会や教育刷新委員会、また大学基準協会設置前後の議論の検討を課題とした。しかし、実際には、先述のように先行研究の検討を進める中で教育刷新委員会だけでなく、教育指導者講習(IFEL)等の史料分析を行い、戦後の新制大学で導入された一般教育がどのように理解され、また受容されていたのかについて検討を進めてきた。教育指導者講習(IFEL)については、当初は検討対象としていなかったが、各大学で一般教育を担当する大学教員等に向け講習が行われ、実際に多くの教職員が参加していた。また人文科学・社会科学・自然科学の部会ごとに現状の課題等が議論されていたこともわかった。 一方で、当該年度において課題とした戦後教育改革に関するすべての審議を検討できたわけではない。調査・研究の時間が想定より十分にとれなかった要因としては、着任1年目で大学の諸業務に追われただけでなく、多胎妊娠のため妊娠発覚後早期の段階で医師から遠方への移動が制限されたことにより予定していた調査が困難となったこと、また研究の時間が比較的取りやすくなった頃にコロナウィルス感染拡大の影響によって多くの研究機関が臨時閉館となったことが大きい。当該年度の課題としていた「日本ノ教育家」委員会や教育刷新委員会の未検討部分、また大学基準協会設置前後の議論については引き続き検討していく。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、一般教育が戦前の高等普通教育とどのような点において共通性があり、また異なっていたかという視点から、引き続き実証的に研究を進める。まず、戦後の高等学校や大学予科の廃止や統合に関する改革論議の整理を行う。具体的には「日本ノ教育家」委員会や大学基準協会等、まだ検討できていない議論を引き続き検討する。これらの論議の検討によって、アメリカの「ジェネラル・エデュケーション」が戦前の高等学校や大学予科で教授された高等普通教育とは異なる「一般教育」として導入された経緯が明らかになる。 また、各学校の史料を用い、旧制高等学校や大学予科が廃止され、新制大学の一部として改編された過程を検証する。第三高等学校や新潟高等学校等、戦前の高等普通教育機関が新制大学に改編されて一般教育を担当することとなった点に着目し、各校の文部省往復等の行政文書や教授会史料等を中心に収集・整理・分析する。これらの史料から、戦前の高等普通教育機関が新制大学の一般教育担当組織に改編された際の一般教育の解釈や、実際に行われた教育内容等が明らかになる。なお、各講義で使用された講義録や教授法等から、各大学で教授された一般教育の内容と戦前の高等普通教育の内容とを比較分析することも試みる。社会科学系の科目の変化等、一般教育として新たに増加した科目の教授状況を検討対象とすることで、組織および教育内容において、戦前の高等普通教育が一般教育に継承された点、および変更された点を具体的に示していく。 このように、一般教育が新たに設定された背景や経緯についての議論や、新制大学における一般教育の実施状況を整理したうえで、申請者がこれまで検討してきた高等普通教育の議論や内容と比較・分析することで、新しく導入されたはずの一般教育が依然として戦前の高等普通教育と同様に当初から課題とされ続けてきた経緯を明らかにし、得られた成果を発表する。
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Causes of Carryover |
着任1年目で大学の諸業務に追われていただけでなく、多胎妊娠のため妊娠発覚後早期の段階で医師から遠方への移動が制限され、予定していた調査が困難となったこと、またコロナウィルス感染拡大の影響により資史料調査を予定していた近郊の研究機関の多くが臨時閉館となったこともあり、資料調査のための旅費として計上した研究費をほとんど使用することができなかった。 よって次年度は、当該年度に行えなかった「日本ノ教育家」委員会や大学基準協会等の調査研究や、また戦前は高等普通教育機関であったが戦後新制大学に改編されて一般教育を担当することとなった第三高等学校や新潟高等学校等への史料調査を行うこと、またそれに関連した書籍等の購入のために研究費を使用することを計画している。
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