2019 Fiscal Year Research-status Report
「心の痛み」と「体の痛み」の類似性・差異性に関する実証的解明
Project/Area Number |
19K23367
|
Research Institution | Kochi University of Technology |
Principal Investigator |
玉井 颯一 高知工科大学, 情報学群, 助教 (00848517)
|
Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
|
Keywords | 排斥 / 心理的痛み / fMRI / ネガティブ感情 |
Outline of Annual Research Achievements |
身体的痛みを経験した時に活動する脳領域 (dACC) は、集団から排斥された時にも活動するとされる。こうした知見より、排斥された時、人は“痛み”を経験しているという「痛みの共通性理論」が提案されている。しかし、dACCは痛み以外の心理プロセスにも関与しており、dACCの活動が、必ずしも痛みが生じていることを示しているわけではない。本研究では、排斥された時の脳活動と別の心理プロセス(身体的痛みやネガティブ感情)を感じている際の脳活動を直接比較することで、排斥された際に「痛み」が生じているのか、より詳細な手続きによって検討する。 令和元年度は、排斥後の心理プロセスを扱った研究知見をまとめ、レビュー論文を執筆した。論文では、排斥された後、“痛み”が生じているのかを詳細に検討した研究が不十分であり、排斥後に痛みが生じていると断定することは、現状では難しいことを指摘した。過去20年に渡って、痛みの共通性理論はさまざまなメディアで取り上げられ、多くの研究で引用されている。これに対して、本知見は、排斥後の心理プロセスを痛みと解釈することにおける留意点をまとめ、現在求められる研究を示した総説として大変意義深いと考えられる。 また、排斥によって心理的痛みを経験した時の脳活動と、ネガティブな感情を経験した時の脳活動を比較するfMRI実験の準備を進めている。本研究によって、集団から排斥された際の心理プロセスとは、単なるネガティブ感情とはどう異なるのかを検討する。近年、排斥後の心理プロセスが一般的なネガティブ感情とはどう弁別されるのかを検討する必要性が論じられていることから、本研究は社会心理学・社会神経科学の領域に大きなインパクトをもたらすと考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、以下2つの要因により、進捗がやや遅れている。第一に、当初予定していた本研究の手続きの大幅な修正が必要となり、その修正に多くの時間を要している。第二に、新型コロナウイルスの影響によって、ヒトを対象とした行動実験・fMRI実験が停止されており、他の研究機関への出向も制限されている。したがって、当初予定していた研究スケジュールが全体的に後ろ倒しとなっている。ただし、実験の実施が停止されている間、排斥後の心理プロセスに関する最新の研究知見をまとめたレビュー論文の執筆・投稿が完了しているため、予定していなかった形での成果が得られている。
|
Strategy for Future Research Activity |
参加者の安全を確保することを目的として、当初の予定から本研究で採用する実験手続きの一部を変更している。具体的には、参加者に微弱な身体的痛み刺激を加えることを想定していたが、参加者の身体的安全を考慮する必要があると判断し、痛み刺激に代わるその他の手続きを用意している。また、外部機関において実験を実施することを予定していたが、現在まで県外への移動が困難な状況であることから、研究代表者の所属機関のfMRIを用いることを計画している。 現在は、新型コロナウイルスの動向を見ながら、ヒトを対象とした実験が許可され次第、実験を開始するべく実験プロトコルを作成している。fMRI実験では、実験者と参加者の対面は避けられない。そのため、実施が認められない、もしくは、参加者が集まりにくい事態も想定される。その場合は、遠隔による行動実験やオンライン実験による実施も視野に入れて準備を進める。 また得られた成果を迅速に論文として発表できるよう、現在はイントロダクションの執筆を行っている。
|
Causes of Carryover |
当初計画していた学会での発表をその他の用務との兼ね合いから断念したこと、および、外部機関への出張がいくつか取りやめになったことにより次年度使用額が生じた。令和2年度は、令和元年度に取りやめとなった本研究に関する打ち合わせ旅費や得られたデータの学会発表を行うため、当初の計画よりも多く研究費を支出することが想定されている。それに備え、次年度へと研究費を持ち越すこととした。
|
Research Products
(1 results)