2019 Fiscal Year Research-status Report
冷却原子の個別観測と事後選択的統計処理に基づく開放量子多体系の研究
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19K23431
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Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
富田 隆文 分子科学研究所, 光分子科学研究領域, 特任助教 (50846392)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 原子分子 / 量子エレクトロニクス / 冷却原子 / 光ピンセット |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題の実験において必要となる、光ピンセット光学系を構築した。初めに、磁気光学トラップ(MOT)によるルビジウム(Rb)原子集団の捕獲に成功した。この装置に、単一原子観測及び光ピンセット光集光用の対物レンズを導入し、強集光トラップ光を構築した。偏光勾配冷却の後、トラップ光を用いて単一原子を捕獲し観測することに成功した。原子の冷却と発光のバランスを最適化し、同時に迷光やノイズ源を除去することで、原子の有無を高い忠実度で識別できている。 単一トラップの構築のみならず、空間光変調器を用いて光ピンセット用レーザー光の空間的位相を変調することにより、真空チャンバー内の原子位置に集光点を複数構成し、20個の光トラップを作ることに成功し、各サイトに占有率50%で原子が捕獲されていることを観測した。 原子からの発光を最適化しイメージングにかかる時間を短くすることで、データ取得時間を0.3秒程度にまで短縮した。これは従来の蒸発冷却を含む冷却手法と比べ1桁程度短くなっており、実現確率が極めて小さいイベントをサンプリングし統計的な処理を行うために有効である。 また、特定の状態にある原子をロスさせる共鳴光の光学系を作成し、原子に照射しロスさせることに成功した。この光の強度を適切に調整することにより、本研究で重要となる散逸を人工的に導入することができる。 これらの実験と並行して、解像度向上に向けて新規対物レンズの購入および性能評価を進めた。本実験においては、対物レンズの視野全体にわたって収差が発生しない系が望ましいが、これまでに構築した実験系ではチャンバー窓による収差を除去することができない。新規購入した高解像度対物レンズは、このような収差が発生しない設計となっており、より微細な光トラップの形成、高解像度のイメージングができる。性能評価として、視野全体において均一なイメージングができることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、光トラップ配列を構築し、そのなかにトラップされた個別原子の観測手法を確立した。また、原子ロスを誘起させる共鳴光を照射する実験を行い、基本的な特性を確認した。また、蒸発冷却を伴う光格子系の実験と比較し1桁程度高速なデータ取得が既に可能となっており、実現確率が極めて小さいイベントをサンプリングし統計的な処理を行うことができる系になっている。また、これらの各項目について改善点が明らかになり、その対応について議論を進めることができている。以上から、本年度の課題の進展は、おおむね順調であるとした。
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Strategy for Future Research Activity |
数個から10個程度の原子を1次元または2次元格子状に配列させ、そこに原子ロスを誘起させる光を照射することで開放量子多体系を実現する。具体的には、新規対物レンズの性能評価を完了させ、初年度に構築した実験系に導入し、イメージングの解像度を向上させる。また、この光学系において原子間距離をどの程度にまで縮めることができるか検証する。検証によって得られたパラメータをもとに、トンネリングとオンサイト相互作用による近距離相互作用、およびリドベルグ状態を用いた長距離相互作用の具体的なパラメータとロスレートを勘案し、両立する条件を探索する。両方の相互作用を高精度に制御するためには、原子が各トラップの中心に局在することが求められる。したがって、振動基底状態への冷却のためにラマンサイドバンド冷却を実装する。これらののちに、開放量子多体系における原子間の密度相関の伝搬といった非平衡ダイナミクスの観測を行う。
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Causes of Carryover |
本年度は、新型コロナウイルス感染症による学会中止が相次いだため、旅費の使用額が当初予定よりも少なくなった。次年度は、光学機器、測定機器の購入、および当該研究の成果報告のための学会出張において旅費として使用する。
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Research Products
(2 results)
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[Presentation] Towards observation and manipulation of ultrafast many-body dynamics of Rydberg atoms in optical tweezers arrays2019
Author(s)
T. Tomita, S. de Leseleuc, Y. Chew, M. T. Panduranga, S. Sugawa, N. Takei, H. Sakai, Y. Takiguchi, T. Ando, K. Ohmori
Organizer
Gordon Research Conference, Quantum Control of Light and Matter
Int'l Joint Research