2019 Fiscal Year Research-status Report
Spatial Planning and Assessment for Waste-energy-based Regional Heat Exchange Networks
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19K23530
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
竇 毅 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任研究員 (10851107)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 未利用エネルギー / 地域熱供給 / 省エネルギー / 地域計画 / 産業共生 / 循環型社会 / 低炭素社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度は、東京都市圏(一都三県)に立地している大規模な火力発電所と製造工場、そして既存の廃棄物焼却施設と地域熱供給システムの間に、排熱利用を中心とした広域的熱交換ネットワーク構築の可能性を探索した。それは、一般的な熱交換器と蒸気・温水輸送用パイプラインから構成した熱供給システムを想定し、熱のキャスケット利用を考慮した上で、火力発電所からの抽気熱、焼却施設からの蒸気熱、及び工場中低温排熱等を近隣の製造工場や地域熱供給システム等へ供給することが有利な事業をプログラムで探し出し、地図上で表示することを目標にした。具体的に、対象施設の立地データから熱需給の空間分布を把握した上で、距離分析と熱輸送の水力計算を組み込んだ熱交換事業の経済性・環境性評価から、エネルギー政策と市場メカニズムをシナリオに入れ、需給マッチングプロセスをシミュレーションするモデルを開発した。現段階では、熱供給先と需要家の立地情報の公開有無、排熱発生量と熱消費量の公表制度の有無、投資限度額、投資回収年数及び事業マッチング戦略等をシナリオに反映した。 試算の結果は、現在の土地利用ゾーニングの影響で、発電所抽気熱を近隣工場への利用可能量が最も多く、次は焼却熱の産業利用、焼却熱の地域冷暖房利用の順で利用可能量が減り、工場排熱を地域冷暖房に利用できないと分かった。特に、施設の立地と排熱需給量の情報が公表されない場合、圏内では77個の熱交換事業が候補になり、40PJ程度の排熱が利用可能になるに対し、情報公開かつ十分な融資ができる場合では133個の事業候補があり、排熱の利用可能量は2.5倍に増える。ここで、投資回収年数よりも初期投資額の最小化が目標にすれば、総量として事業候補数と排熱の利用可能量は大きく変化しないが、事業の平均投資回収年数が大幅に長くなると見込まれる。これにより、モデルの妥当性も確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
従来の研究は未利用熱の賦存量推計、または事業レベルで熱供給システムの事業性を評価するものが多いが、本研究は地域インベントリーの視点から、最新の地理情報分析ツールを活用し、事業レベルで排熱利用の経済性・環境性を評価することから地域計画までアップスケーリングし、空間計画、投融資及びエネルギー政策が地域熱供給市場へのインパクトを評価することまで一貫したモデルフレームワークを構築した。これは、トップダウン型の地域計画手法とボトムアップ型の熱供給市場分析を組合せたことで、当初想定した本研究の最大のオリジナリティを実現したと言える。 一方、現在までの研究成果は、国が検討している廃熱発生量の公表制度、熱の固定価格買取制度等の導入を支持する証拠を提供しており、自治体に対しても具体的な事業計画へ示唆することができ、排熱利用技術の社会実装への支援効果が望まれる。また、物理的にも空間的にも焼却施設の排熱を工場へ利用する優位性が確認され、廃棄物エネルギー利用高度化及び焼却施設の更新・広域化課題に貢献することも見込まれる。これは当初の計画通りであり,概ね順調に研究が推移していると言える。昨年度の研究成果を土台に、本年度はモデル開発とシナリオ設計においてさらに現実性を向上し、産学官連携を通じて積極的に研究成果を発信し、未利用熱を中心とした熱供給システムの社会実装・早期普及に支援を行いたい。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の結果を受け、未利用熱計画の現実性向上及び社会実装への支援に着目し、さらに評価モデルを改善し、もっと複雑な技術・政策導入シナリオを検討する予定である。具体的に3つの課題に取り組むと考えている。 (1)現在のモデルでは、企業の敷地面積と年間二酸化炭素の排出量から排熱発生量と熱消費量を推計したが、製造プロセスと排熱の自家回収利用等詳細な情報を把握していないため、推計結果は実際のポテンシャルより高い可能性がある。詳しい調査の上で、より精確的に熱需給を推計する他に、将来産業部門の低炭素化に伴う熱利用ポテンシャルの低下もシナリオに入れて結果を再検討する。 (2)熱交換器とパイプラインから構成した熱供給システムのケースを検討したが、実際は排熱発電、相変化蓄熱材等様々な排熱利用・輸送の手段があり、他に高効率ヒートポンプ等ライバル技術も今後導入されると見込まれるため、将来地域熱供給システムの構造変化や個別熱利用技術との競合性をモデルに反映し、再度シミュレーションを行う。 (3)都市圏という広域的に排熱を中心とした熱交換ポテンシャルを評価することで、国や自治体に向けて投融資やエネルギー政策の策定に証拠を提供する同時に、評価結果では個別事業への特定もできるため、川崎エコタウンといった熱交換ポテンシャルの高いエリアを対象に実装支援を行う。地域熱供給事業の現実性を認識した上で、各ステークホルダーの意思決定を考慮したより複雑なシナリオを検討することで、もっと現実的に熱交換事業の計画法を示すように、研究を進めると考えている。
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Causes of Carryover |
2020年1月から発生した新型コロナウイルスの流行は本研究の進捗に多大な支障をもたらした。まず、当初研究計画に想定した、高額な工場立地データの購入についてデータ会社との交渉は現在留まり、予算計画に最大の分を占めるデータ購入費がまだ発生していない。また、当初予定された国際学会への発表は現在すべて延期となり、企業や専門家への調査訪問も中止されたため、旅費、謝金等の使用が予定より少ない。これらの研究活動は緊急事態宣言の解除後に続きたく、当初の計画と同じ程度の費用が発生すると見込まれる。次年度ではいくつかの論文投稿が予定され、助成金の一部は英文校閲費にかかると計画している。
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Research Products
(1 results)