2019 Fiscal Year Research-status Report
計算科学によるα-Tiの双晶クラック抑制機構の解明
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19K23570
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
宮澤 直己 東京工業大学, 物質理工学院, 助教 (40847787)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 分子動力学 / チタン / 双晶 / 第一原理計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は分子動力学計算を用いて純αチタンの双晶と転位の相互作用の解析を行った。また、これに及ぼす酸素の影響を調べるために、双晶界面に酸素を偏析させたモデルを構築した。また、ねじれ粒界と転位の相互作用についても解析した。さらに、チタンでは酸素以外の添加元素の影響を調べることが難しいことから、チタンと同じ六方最密充填構造を有する金属であるマグネシウムにおいて、転位と粒界の相互作用に及ぼす種々の添加元素の影響を調べた。 まず、純チタンの(10-12)双晶及び(10-11)双晶の計算モデルを構築し、らせん転位との相互作用を調べた。その結果、双晶界面において圧縮応力が働くサイトに転位を衝突させた場合と、引張応力が働くサイトに転位を衝突させた場合とで、双晶転位が運動する際に不動転位を生じるか否かの違いがみられた。またねじれ粒界との相互作用では、高い外部応力が必要であった。また、酸素を偏析させた双晶界面モデルを構築し、安定化計算を行った。酸素を偏析させたモデルの偏析エネルギーを計算した結果、過去に第一原理計算で報告されている値と近い値を得ることができた。このことから、チタンと酸素の相互作用を調べるポテンシャルの妥当性が確かめられた。 一方、当初はチタンにおける様々な添加元素の影響を調べる予定であったが、チタンでは多数の添加元素に対する相互作用ポテンシャルを手に入れることが難しいことが分かった。そこで、チタンと同じ六方最密充填構造を有するマグネシウムについて、様々な添加元素を偏析させた粒界と転位の相互作用を調べた。その結果、転位の吸収にはサイズ効果、転位の放出には結合の効果が支配的であることが分かった。この結果はチタンにおける酸素の影響を調べる際の手掛かりになると考えられ、転位の吸収や放出に際して生じると予想される複雑な挙動をサイズ効果や結合の効果から考察する根拠とすることができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、分子動力学計算を用いてαチタンの双晶と転位の相互作用、およびマグネシウムの粒界と転位の相互作用を解析した。分子動力学計算において、αチタンにおける添加元素との相互作用ポテンシャルの報告例が想定していたよりも少ないことが分かった。そのため、種々の添加元素のうち酸素が転位と双晶の相互作用に及ぼす影響に絞って計算を行うという方向転換をした。一方、多数の添加元素を扱うための代替手段として、チタンと同じ六方最密充填構造であるマグネシウムにおいて、種々の添加元素が粒界と転位の相互作用に及ぼす影響を調査した。 チタンにおいては、添加元素を含まないモデルと転位との相互作用を計算し、転位が双晶界面のどの部分に衝突するかによって、その後生成する双晶転位の運動状態が変化することが分かった。また、酸素を含む場合の安定な双晶モデルを構築することができた。酸素の偏析エネルギーを計算した結果、過去に報告されている値と近い値が得られた。つまり、チタンと酸素の相互作用ポテンシャルの妥当性が確かめられた。 一方、マグネシウムを対象にして添加元素が転位と粒界の相互作用に及ぼす影響を調査した。主に転位の吸収にはサイズ効果が影響し、転位の放出には主に化学結合の効果が影響するという知見を得ることができた。 以上のように、分子動力学計算において方向転換をした関係から、分子動力学計算の実施に予定よりも時間がかかった。そのため第一原理計算にはまだ取り組んでおらず、準備段階にある。第一原理計算は来年度から行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、分子動力学計算を用いてチタンにおいて酸素を偏析させた双晶界面と転位との相互作用を解析する予定である。また、第一原理計算を用いて酸素を偏析させた双晶界面モデルにおける破壊エネルギーを計算する予定である。さらに、両者の結果を比較する。 具体的には、転位が双晶と衝突した後の転位の運動状態を観察する。純チタンの場合と酸素を双晶に偏析させた場合とで、転位が双晶転位に分解されるか、あるいは双晶界面を通過するかといった転位の運動状態の変化を観察する。さらに、原子に働く力や応力の変化、外部応力の変化等を定量化し、比較する。これを、双晶界面に偏析させる酸素の濃度を様々に変化させて行う。以上の計算から、双晶の転位に対する抵抗力に及ぼす酸素の影響を調べる。 次に、第一原理計算を用いて純チタン及び酸素を偏析させたチタンの双晶界面における破壊エネルギーを計算する。また、電子密度及び電子状態密度を調べ、破壊エネルギーが変化する原因を調べる。最後に、得られた結果を分子動力学計算の結果と比較することで、双晶の強度において酸素が転位との相互作用及び電子状態に対して果たすそれぞれの役割を明らかにする。これらの解析を通じて、αチタンの強度を向上させる新しい材料設計指針を見出す。 また、今年度得られたマグネシウム粒界における添加元素の影響を調べた結果とも比較を行う。このことにより、チタンの双晶において酸素原子がサイズ効果・化学結合の効果のいずれを発現し、双晶の強度を変化させているのかを探ることに繋げる。
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Causes of Carryover |
本年度は分子動力学計算を実施するにおいて想定していたよりも経験ポテンシャルを入手することが難しく、研究計画の修正を余儀なくされた。そのため、第一原理計算を行う時間的余裕を確保することができず、今年度行う予定であった第一原理計算の分の使用額が生じた。第一原理計算は本年度中に行う予定である。
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Research Products
(2 results)