2019 Fiscal Year Research-status Report
スピンフラストレーションによる[4n]π共役系のスピン状態制御
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19K23629
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
清水 大貴 京都大学, 工学研究科, 助教 (10845019)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 安定ラジカル / 芳香族性 / スピン |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は[4n]π系に外部スピンによる摂動を与えることにより[4n]π基底三重項状態を実現するモデル系の設計を行い、合成検討に着手した。 モデル化合物の理論予測としては、[4n]π共役系を有するシクロブタジエンやペンタレン、シクロオクタテトラエン(COT)に安定ラジカルであるニトロニルニトロキシドが適切に置換した系を設計した。量子化学計算の結果、計算されたスピン密度分布から、どの場合においても基底状態で8π三重項電子状態(分子全体としては部分三重項状態の[4n]π系と置換したラジカルが反強磁性的に相互作用した低スピン状態)が誘起されることが予測された。また、COTの系では桶型ではなく平面構造が安定であることも明らかになっている。これらは[4n]π三重項状態を基底状態で実現する初めての一般的な設計指針となる重要なものである。 続いて実際の合成検討では外部に適切な置換基を配置することにより比較的高いスピン密度が予測される部位を立体保護した化合物の合成を種々検討した。しかし、ペンタレンおよびシクロオクタテトラエンの場合にはニトロニルニトロキシド部位の合成に必須の1,2-ジケトン前駆体が不安定なためか合成には至らず、またシクロブタジエンの場合には対応する1,2-ジケトンまでの合成には成功したものの、続くニトロニルニトロキシド骨格の形成には現在までに成功できていない。これまで知られているニトロニルニトロキシド骨格の構築法は1,2-ジケトン等価体を用いるものに限られており、この制約のために合成は困難であると考えられる。 そこで、次年度以降は新たにニトロニルニトロキシドと同様のアリルラジカル型の安定ラジカルであるBlatterラジカルを[4n]π系に置換させたモデル化合物の検討を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は[4n]π系にスピンによる摂動を与えることにより[4n]π基底三重項状態を実現するモデル系の設計を行い、合成検討に着手した。 モデル化合物の理論予測としては、[4n]π共役系を有するシクロブタジエンやペンタレン、シクロオクタテトラエン(COT)に安定なアリル型ラジカルであるニトロニルニトロキシドが適切に置換した系を設計した。量子化学計算の結果、計算されたスピン密度分布から、どの場合においても基底状態で8π三重項電子状態(分子全体としては部分三重項状態の[4n]π系と置換したラジカルが反強磁性的に相互作用した低スピン状態)が誘起されることが予測された。また、COTの系では桶型ではなく平面構造が安定であることも明らかにした。これらは[4n]π三重項状態を基底状態で実現する初めての一般的な設計指針となる重要なものである。 続いて実際の合成検討では外部に適切な置換基を配置することにより比較的高いスピン密度が予測される部位を立体保護した化合物の合成を種々検討した。しかし、ペンタレンおよびシクロオクタテトラエンの場合にはニトロニルニトロキシド部位の合成に必須の1,2-ジケトン前駆体が不安定なためか合成には至らず、またシクロブタジエンの場合には対応する1,2-ジケトンまでの合成には成功したものの、続くニトロニルニトロキシド骨格の形成には現在までに成功できていない。これまで知られているニトロニルニトロキシド骨格の構築法は1,2-ジケトン等価体を用いるものに限られており、この制約のために合成は困難であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの進捗状況で述べたとおり、当初想定していたニトロニルニトロキシド縮環[4n]π共役系の構築はニトロニルニトロキシド骨格の合成に必須な1,2-ジケトン前駆体の安定性が低いことから難しいと考えている。また、ニトロニルニトロキシド骨格の新しい合成法を考案するのも困難であると考えている。しかし、その一方で基底状態で8π三重項電子状態(分子全体としては部分三重項状態の[4n]π系と置換したラジカルが反強磁性的に相互作用した低スピン状態)を誘起する分子設計指針は確立することができた。 そのため、初年度のモデル設計の際に得られた設計指針を利用し、次年度は目的化合物を変更して合成検討を行うことにする。具体的にはニトロニルニトロキシドと同様に安定かつアリルラジカル型のスピン構造を有するBlatterラジカルを摂動に導入した4nπ共役系の構築を目指す。Blatterラジカルは1,2-ジケトンではなくモノアミンからAza-Wittig反応と続く電子環状反応による環化で縮環したアリルラジカル構造を一挙に構築でき、かつ幅広いアリール置換基をもつものを合成可能である(P. A. Koutentis et al. J. Org. Chem. 2017, 82, 7564)という意味で有用なラジカルである。 また、Blatterラジカルが複数置換した共役系は非ケクレ型であるにもかかわらずビラジカルではなく双性イオン型になるとが知られている例があるなど、Blatterラジカルが縮環した共役系の電子構造にも興味が持たれる。
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Causes of Carryover |
本年度(研究期間は後期のみ)は主にモデル化合物の理論計算と合成検討を行った。理論計算絵では研究グループおよび大学の計算資源を使えたこと、また合成検討に用いた試薬などは研究グループに既存のものを多く使うことができたことで今年度所要学が当初の想定よりも少ない額となった。 次年度には当初は初年度に完了すると想定していたモデル化合物の合成本格的に実施するため、試薬やガラス器具等の消耗品が多く必要になる。次年度使用額として計上した予算は主にこの用途に当てられる。 加えてもともと次年度に想定した合成に成功した場合の測定に必要な光学部品なども購入予定であることから、次年度には当初の想定よりも多い所要額を想定している。
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Research Products
(2 results)