2020 Fiscal Year Research-status Report
胸腺退縮に伴うT細胞ミトコンドリア障害のメカニズムと機能的意義の解明
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19K23862
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
城 憲秀 京都大学, 医学研究科, 特定助教 (50849552)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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Keywords | T細胞 / ミトコンドリア / 胸腺退縮 / 恒常性増殖 / 生体外物質トランスポーター |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者らは、胸腺摘出マウス(ATx)のT細胞においてミトコンドリア膜電位プローブの染色性が低下しているという予備的結果をもとに、「胸腺退縮に伴う恒常性増殖が、ミトコンドリア機能障害を介してT細胞老化に影響する」という仮説を立てて、本研究を開始した。 令和元年度までに、細胞外フラックスアナライザー等のミトコンドリア膜電位プローブ以外の方法を用いてATx T細胞におけるミトコンドリア機能に関する評価を行ったが、いずれのアッセイにおいてもミトコンドリア機能低下を示唆する結果は認められなかった。網羅的遺伝子発現解析から候補因子を探索する中で、MDR1(Multiple drug resistance 1)遺伝子がATxのT細胞で高発現していることが判明し、ミトコンドリア膜電位プローブを細胞外に排出している可能性が示唆された。実際にMDR1阻害剤でATxのT細胞を処理すると、ミトコンドリア膜電位プローブの染色性低下がキャンセルされた。以上の結果は、当初の仮説を否定することとなったが、一方ではT細胞老化におけるMDR1の重要性を新たに示唆した。 令和2年度は、MDR1ノックアウト(KO)マウスを用いて、T細胞老化におけるMDR1の生物学的意義を明らかにする計画であった。しかし、COVID-19パンデミックにより、所属機関でのマウス飼育数が70%に削減されるとともに、新たなマウス導入が不可能であった。同年7月より制限は解除されたが、出勤制限などの影響もあり、実験再開に時間を要した。 令和3年度開始時までに、MDR1 KOマウス作製に成功した。体外受精によるコロニー拡大を行うとともに、フローサイトメトリーやミトコンドリア膜電位プローブを用いたT細胞やMDR1に関する基本的なプロファイリングを進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ATx T細胞において示唆されたミトコンドリア機能障害について、他の手法を用いてミトコンドリア機能障害の具体的なメカニズム解明を試みた。細胞外フラックスアナライザーによる酸化的リン酸化の評価では、ATx T細胞において酸素消費量の低下は認めなかった。ミトコンドリア量、クリステ、分裂・融合などの形態は電子顕微鏡を用いて解析したが、有意な差が認められなかった。RNA-seqを用いた網羅的遺伝子発現解析では、ミトコンドリアに関わる遺伝子群に有意な発現差を認めなかった。質量分析を用いたメタボローム解析では、ATx T細胞でむしろTCA回路や解糖系に関わる代謝産物、ATPが上昇していた。 網羅的遺伝子発現解析から候補遺伝子を探索する中で、MDR1遺伝子がATxのT細胞で高発現していることが判明した。MDR1は、P糖タンパク質(P-gp)、ABCB1(ATP-binding Cassette Sub-family B Member 1)とも呼ばれ、細胞膜上に存在して細胞毒性を有する化合物などを細胞外排出することから、ミトコンドリア膜電位プローブを細胞外に排出している可能性が示唆された。実際にMDR1阻害剤であるVerapamilとCyclosporine HでATxのT細胞を処理すると、ミトコンドリア膜電位プローブの染色性低下がキャンセルされた。MDR1 KOマウスのT細胞では、ミトコンドリア膜電位プローブは染色性増加を認めた。以上の結果から、ATxのT細胞ではミトコンドリア膜電位の低下は無く、MDR1発現が上昇していることが示された。
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Strategy for Future Research Activity |
MDR1 KOマウスの胸腺や末梢リンパ組織を、フローサイトメトリーを用いて解析し、T細胞の分化・成熟に明らかな異常を認めなかった。作製されたマウスは全身性のKOマウスを有しているが、発育・成長にも大きな異常を認めず、今後のT細胞におけるMDR1の機能的解析に使用することが問題ないと考えられた。現在は、交配ではなく体外受精によるコロニー拡大を行うことで、研究進捗を促進させるように努めている。 今後は、若齢期に胸腺摘出をしたMDR1 KOマウスもしくは高齢MDR1 KOマウスのT細胞の状態を解析することで、胸腺摘出に伴うT 細胞の恒常性増殖や自然加齢におけるMDR1の機能的意義について検証を行う。CD3陽性細胞数、CD4/8比を定量し、MDR1の末梢組織でのT細胞長期生存に寄与する役割を評価する。また、BrdU投与やKi-67染色を行い、恒常性増殖の程度を評価する。MDR1が長期生存に寄与する場合には、毒性のある生体外物質を細胞外に排出している可能性がある。原因物質として代謝産物もしくは蛋白物質を考える場合にはメタボローム解析やプロテオミクス解析などを検討する。またMDR1は脂質を生体外に排出する機能を有することが報告されている。上記マウスに高脂肪食やウェスタンダイエットなどのストレスを与えて、生活習慣病がT細胞の維持に与える影響及びMDR1の役割について検証する。
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Causes of Carryover |
令和元年度終了時までにMDR1遺伝子が重要な役割を果たす知見を得た。令和2年度はノックアウトマウスを用いて、T細胞老化におけるMDR1の生物学的意義を明らかにする計画であった。しかし、COVID-19パンデミックにより、所属機関でのマウス飼育数が70%に削減されるとともに、新たなマウス導入が不可能であった。同年7月より制限は解除されたが、マウス拡大と実験再開に時間を要し、進捗が十分でない。
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