2020 Fiscal Year Research-status Report
分子構造からみた時間-温度換算則の妥当性とMD解析による長期寿命予測法の開発
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19KK0363
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
坂井 建宣 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (10516222)
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Project Period (FY) |
2020 – 2022
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Keywords | 分子動力学シミュレーション / 時間-温度換算則 / クリープ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、分子動力学シミュレーション(MD)を用いた高分子材料の時間-温度換算則(tTSP)の現象解明および適用可否について検討を行う研究である。本研究はリュブリャナ大学との共同研究で、tTSPの適用可否およびナノインデンテーション試験とMD解析の比較を行う予定だが、現状では新型コロナウイルスの影響のため、リュブリャナ大学での研究はほぼ進んでいない。そのため現在日本での研究を主に進めている。 MD解析においては、ポリエチレン(PE)におけるクリープ挙動解析を行い、時間依存性および温度依存性が得られることを確認した。また解析結果に対してtTSPの適用を試み、きれいな1本のマスター曲線およびシフトファクターを得た。これによりMD解析によるPEのクリープ挙動についてもアレニウス型時間―温度換算則の適用が可能であることを明らかにした。またこの時の時間軸方向の移動量から活性化エネルギーを算出したところ、実験値とほぼ同等の値を示したことから、ナノサイズ・ナノ秒領域におけるtTSPについても、実験値と同じ傾向を示すことが明らかとなり、MD解析にtTSPを適用することで時間を現実時間まで広げることについて、意味があることを明らかとした。 MD解析結果からは、結合・結合角・二面角・非結合ポテンシャルエネルギーを算出可能である。これらのポテンシャルエネルギーについてもtTSPの適用を試みたところ、非結合ポテンシャルが最もtTSPに影響を及ぼしていることを明らかにした。 非結合ポテンシャルの影響を最も受けると思われる、自由体積量の変化について解析を行った。クリープ変形が進行するとともに自由体積量が減少していることが明らかとなり、またその減少量についてもtTSPが成立することが明らかとなった。その活性化エネルギーから、自由体積量の変化はクリープ挙動のうち半分程度の影響を及すことを明らかとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルスの影響によりスロベニアへの渡航ができず、ナノインデンテーション試験に関するディスカッションおよび材料の手配が遅れており、材料は現在分子量の異なるポリエチレンの試験片の作成が終わり、これからスロベニアにて実験を行ってもらう予定である。ただし、来年度も渡航できる見通しが立っていないため、オンライン会議を増やし、渡航せずとも研究を進められる環境作りを検討する必要がある。またリュブリャナ大学においてもロックダウンの影響が大きく、実験ができる状況になるまでは、日本で行える研究を進めておくことが重要である。 分子動力学シミュレーションについては、すでにポリエチレン(PE)におけるクリープ挙動について時間―温度換算則(tTSP)の成立可否の検討および、各種ポテンシャルエネルギーおよび自由体積量の変化に関するtTSPの適用、活性化エネルギーの比較による各種ポテンシャルエネルギーのtTSPへの寄与割合が明らかにされている。しかし本研究で行っているtTSPは、申請者による手動で行ったtTSPであるため、共同研究者が自動でのtTSP適用を行い、正確な評価を行うことが必要である。以上の点において、共同研究が行えていないという観点から、研究の進捗状況としては「やや遅れている」としている。 日本における研究では、PEのみの解析結果だけでなく、ポリプロピレン(PP)についてもクリープ解析およびtTSPの適用を試みており、Tg以下であればtTSPが適用可能であること、またTg以上であれば、tTSPに加えて応力依存性も発生することが明らかとなっている。こちらについても、共同研究者による自動tTSPの検討を行う必要がある。しかし、当初予定していたナノインデンテーション解析については、現状では再現がまだできていないため、早急に行う必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
ポリエチレンなどのポリオレフィンに関する試験片の作成を行う必要があり、現在金沢大学の比江嶋准教授に協力していただき、試料の作成を行っている。このモデルについては、現在結晶化度の調整などが困難であり、安定した品質の試験片作製条件を定める必要がある。この試験片が完成次第、リュブリャナ大学に送付し、リュブリャナ大学にてナノインデンテーション試験・各種熱分析および動的粘弾性試験を行い、分子量および分子量分布がこれらの特性に及ぼす影響を明らかにする。これらの結果を基に、分子動力学シミュレーション(MD)との比較を行い、MD解析の正確性向上を目指す。 また、MD解析においては現在ポリエチレンの結晶モデルおよび非晶モデルの作成に成功しており、結晶および非晶モデルに対する引張解析およびクリープ解析を行っている。現状では、クリープ解析では結晶構造が崩壊するが、引張解析ではき裂が発生して破断する、といった傾向が得られている。同様に非晶モデルおよび結晶モデルを用いて、ナノインデンテーション試験を模擬したMD解析を行う予定である。ナノインデンテーション試験を行うにあたり、温度条件および圧子速度の影響を加味した解析を行うことで、時間-温度換算性を利用したナノインデンテーション解析の現実速度への考慮を行う予定である。
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