2008 Fiscal Year Annual Research Report
京都工芸繊維大学美術工芸資料館所蔵品にみる二十世紀初頭染織品の技術
Project/Area Number |
20032010
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Research Institution | Kyoto Institute of Technology |
Principal Investigator |
佐々木 良子 Kyoto Institute of Technology, 大学院・ベンチャー・ラボラトリー, 研究員 (00423062)
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Keywords | 染織技術史 / 文化財科学 / 合成染料 |
Research Abstract |
京都工芸繊維大学美術工芸資料館染織関連資料調査研究会(染織資料調査会)では、所蔵裂地コレクションの調査を2003年より行っている。このコレクションは、本学の前身である京都高等工芸学校の色染科、機織科、図案科が、主に江戸時代から昭和時代初期に作成された裂地を、大学の教育・研究用資料・標本として集めたが、未整理のまま残されていた。この裂地コレクションについて、整理の上、文化財科学の視点から調査を行ない、用いられた染織技法を解明し、染織技術史的意義を明らかにしてきた。今年は特に初期合成染料について、本学資料「秩父宮殿下御成年式服裂地帖及び関連資料(京都工芸繊維大学美術工芸資料館所蔵AN.2517)」の染色加工を担当した本学教員が作製した『式服加工仕様書』について、当時の京都における染料使用に関する統計と照らし合わせて調査、研究を行った。 京都染物同業組合(現京染会)所有の統計資料から、秩父宮殿下御成年式服を作製した1922(大正11)年当時の染料の輸入状況及び資料状況を1901(明治34)年と比べたところ、天然染料から合成染料への移行がほぼ完了していたと考えられた。しかしながら、『式服加工仕様書』の調査から、一部の染色に天然染料を用いていたことが明らかになった。また、合成染料の染色条件が明記されており、酸性染料の温度管理に染法の未熟さがみられた。更に伝統的な仕上げ加工(板引き)を当時最新の西洋式機械をアレンジし、裏糊加工として近代方式に置き換える加工・配合の工夫が記されていた。現在裂地帖に添付された資料の内、硬化しているものは、この加工の為と考えられる。この式服の加工について『式服加工仕様書』の末には「本仕様書ハ本校ニ於テ考案セル加工及ヒ配合法ヲ後日ノタメ記録セルモノナリ」との記載があり、当時の大学に於ける研究者のあり方を示す一文であるといえる。
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