2011 Fiscal Year Annual Research Report
脂質輸送に関与するABC蛋白質の生理的基質と機能の解明
Project/Area Number |
20228001
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
植田 和光 京都大学, 物質-細胞統合システム拠点, 教授 (10151789)
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Keywords | ABCタンパク質 / 善玉コレステロール / 動脈硬化 / ケミカルライブラリー / iPS細胞 / ES細胞 / 1分子観察 / トランスポーター |
Research Abstract |
本研究は、機能異常が疾病と密接に関係するABC蛋白質の作用機構および生理的役割を解明することを目的としている。本年度は、コレステロール恒常性の鍵をにぎるABCA1の作用機構を解明するため、細胞外ドメインの9か所にHAタグを挿入した変異体の構造変化を抗体との相互作用を観察することによって検討した。その結果、ABCA1の2つのATP結合ドメインでATPが加水分解されることにより細胞外ドメインの構造が変化し、血中の脂質アクセプターであるapoA-Iとの結合部位が形成されることを明らかにした。さらに、ABCA1とapoA-1の相互作用の第一ステップが静電相互作用であることを明らかにした。ケミカルライブラリーからABCA1の阻害剤をスクリーニングすることにより、シクロスポリンAがABCA1と直接相互作用することによって、ABCA1とapoA-Iの相互作用を阻害することを明らかにした。また、ケミカルライブラリーから、ES細胞やiPS細胞特異的に蓄積する蛍光物質を見出し、その蛍光物質がABCB1(MDR1)とABCG2が輸送する基質であること、Es細胞とiPS細胞は特異なABC蛋白質の発現パターンを示すことを明らかにした。さらに、全反射蛍光顕微鏡を用いて細胞膜上のABCA1の動きを1分子レベルで追跡した。その結果、apoA-I非存在下では、ABCA1分子の運動性は低く、約7割が静止していた。一方、非機能性のABCA1-MM8割が拡散運動をした。このことから、ABCA1の機能発現により、細胞膜上でのABCA1の運動性が低下することが明らかになった。さらに、apoA-1存在下でのABCA1の動きを観察することによって、ABCA1はHDL産生時に一時的にダイマー化することを明らかにし、ABCA1によるHDL産生メカニズムの解明に全反射蛍光顕微鏡を用いた1分子観察が極めて有効であることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
善玉コレステロール形成の鍵をにぎるABCA1の作用機構の解明は順調に進展している。さらに全反射蛍光顕微鏡を用いた1分子解析によって、ABCA1によるHDL形成を可視化することに成功しつつある。ケミカルライブラリーのスクリーニングによって、ABCA1の阻害剤を見出し、その作用機構を明らかにした。さらにES細胞やiPS細胞特異的に蓄積する蛍光物質を見出し、それらがABC蛋白質の輸送基質であることを明らかにした。ABCB1(MDR1)の3次元構造の解明にも成功しつつあり、当初の計画以上に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
全反射蛍光顕微鏡を用いた1分子解析をさらに推進することによって、ABCA1によるHDL形成の可視化を完成させる。ケミカルライブラリーのスクリーニングをさらに推進することによって、他のABC蛋白質の基質や阻害剤を見出す。さらに特異的抗体を用いてABC蛋白質の発現部位を同定することによって、生理的役割を解明する。構造に基づいた作用機構の解明を含めて、研究はすべて順調に進展している。
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