Research Abstract |
高分子と固体基板との粘着・剥離現象は,分子スケールからメソ・マクロなスケールにわたるマルチスケールの現象であるだけでなく,内部での大変形・破壊などを伴う複雑な非線形現象でもある.H22年度は,以下のような課題を掲げて実験・理論研究を行なった (1)ナノスケールの粘着・剥離シミュレーション 高分子界面におけるナノスケールの粘着・剥離現象は,表面レオロジーの観点から最近注目を集めている.本研究では,ナノサイズのゴム球と基板との粘着・剥離過程における,界面近傍の構造とダイナミクスを,粗視化分子動力学法を用いて数値的に検討し,界面近傍のレオロジーを評価する新たな手法を提案した (2)低表面エネルギー基板と両面テープとの粘着・剥離現象における非線形効果の研究 2層の粘着剤に1層の中芯を挟んだ両面テープは,2つの面を強く接着する材料として広く日常的に用いられている。前年度は,粘着性が強い高表面エネルギー基板と両面テープとの粘着・剥離現象において,粘着剤の持つ非線形弾性の効果を検証すべく実験研究を行なったが,本年度は,粘着性の低い低表面エネルギー基板についても検討を行なった.その結果,粘着剤片面の場合と比べて圧倒的に大きな剥離エネルギーを持つなど,両面テープ構造の優れた物理的効果を新たに示すことができた (3)粘弾性流体における粘着・剥離現象の観察 CTAB・NaSal水溶液は,水中でひも状ミセル構造を形成し,理想的な粘弾性流体としての性質を示すことが知られている.本研究では,粘弾性流体における粘着・剥離現象として,CTAB・NaSal水溶液を用いたディップコーティング挙動の観察を行なった.その結果,浸漬時間依存性や引き上げ速度依存性など,界面や接触線での高分子ダイナミクスを強く特徴づける現象を見出すことに成功した 以上の成果は,応用上重要な知見を与えるとともに,粘着・剥離現象に関する新たな視点をもたらすものである
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