Research Abstract |
(1)異種元素分散による構造制御(実験):本年度は,DLC膜中に水素原子を分散させることでDLC膜(以下a-C:H膜)を作成し,その構造はラマン分光分析,機械特性は超微小硬さ試験,内部応力測定,摩擦摩耗試験を用いて調べた.a-C:H膜はプラズマ利用イオン注入成膜法によってシリコン基板・鉄基板上に成膜した.原料ガスにトルエンを用いて,成膜時の正・負の高電圧パルスを変えることで水素含有量を変化させた.(正)と(負)の高電圧パルスを下げることで水素含有量が増加し,DLC膜のポリマー化が進み硬さが低下することがわかった.また,高電圧が高すぎると水素は脱離し,グラファイト化することで膜の機械的特性,摩擦摩耗特性は低下することが分かった. (2)異種元素分散による構造制御(分子シミュレーション):古典分子動力学法を用い,Si-DLC膜に関するモデリングを行い表面構造特性解析を行った.a-C同士ではバルク中のsp3原子が増加するにつれて表面形状は平滑になることがわかった.また,同密度では,a-C:Siがa-Cよりも粗さが少し減少する傾向が得られた.バルク中のグラファイトクラスタの大きさや数が減少することにより,表面のグラファイトに影響を及ぼしにくくなることが粗さを小さくする原因であることがわかった. (3)異種元素分散による吸着性制御(実験):本年度は,DLC膜中に窒素原子を分散させることで,有機分子の吸着特性の変化を原子間力顕微鏡を用いて調べた.DLC膜・窒素添加DLC膜(N-DLC膜)は,化学気相蒸着(CVD)成膜法を用いて作成した.有機分子の吸着特性は,1H,1H,2H,2H-perfluorodecyltrichlorosilane(FDTS)をDLC膜またはN-DLC膜上に浸漬法および真空蒸着去で吸着し,自己組織化単分子膜を形成することで調べた.FDTSは有機シラン化合物で,同種の分子間でシロキサン結合(Si-O-Si)の架橋構造を形成する.FDTS分子を吸着した後,物理吸着した分子,凝集体を取り除くために超音波洗浄を行った.窒素を添加していないDLC膜(a-C:H)をCVD法で成膜すると表面粗さが増大し,自己組織化単分子膜の形成過程を原子間力顕微鏡を用いて確認することは困難であった.一方,窒素を分散させたN-DLC膜の場合,(1)表面粗さが低下しなめらかな表面が得られた.(2)昨年度に行った炭素のみのDLC膜(a-C)上の吸着特徃と同様,SAM形成では、浸漬初期に島状構が出来上がり,それが成長すると同時に,新たな島がDLC表面露出部分に形成され,結果として島の密度が増加した.(3)窒素含有量の増加に伴い吸着サイトが増えて膜の形成速度が速くなることがわかった.また,N-DLC膜を作成し,大気にさらさず,真空中でFDTS分子を吸着させることで,浸漬法で自己組織化単分子膜を形成するより吸着速度および吸着量が増加した.
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