Research Abstract |
本研究は,実験的アプローチとフィールド実測を併用して,湿潤熱帯域における土壌有機物動態を記述する新たなモデル構築を目指すものである。平成23年度には,以下のような成果が得られた。 1)グルコース利用効率は,純粋培養微生物では約60%であることが知られている一方,土壌微生物においては,広い範囲の値が報告されている。この点について詳細に検討した結果,グルコース利用効率は,添加グルコース炭素濃度が増加するにつれて,ある閾値までは約80%と一定で,閾値を超えると徐々に低下することが明らかになった。したがって基質濃度が低い疑似定常状態では,基質利用効率を考慮しないこれまでのモデルで微生物呼吸量は十分予測できるが,急激な基質添加がある状況下では,従来のモデルでは微生物呼吸量が過小評価される可能性があることが示唆された。 2)^<14>C標識セルロース・トレーサー法を用いて湿潤アジアの広い範囲の土壌における有機物分解速度と蓄積割合を定量的に評価した結果,セルロースの可溶化速度は土壌によって大きく異なり,温度・水分条件とともに,土壌の酸性度によって規定されることが明らかとなった。またセルロースの無機化速度が可溶化速度に規定されているために,結果的に土壌の酸性度と無機化速度の間に相関が生じることが示された。 3)タンザニアの熱帯畑作地において,有機物施用など圃場管理の違いが炭酸ガス・フラックス,リンなどの養分元素フラックスおよび土壌微生物動態に及ぼす影響を検討した結果,土性(砂質か粘質か)の影響が非常に大きく現れることが明らかとなった。
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