2009 Fiscal Year Annual Research Report
空間における形の認知を介した「主体」の存立の基底に見る感覚の根源性についての研究
Project/Area Number |
20320003
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
栗原 隆 Niigata University, 人文社会・教育科学系, 教授 (30170088)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
加藤 尚武 鳥取環境大学, 大学院・環境情報学研究科, 教授 (10011305)
尾崎 彰宏 東北大学, 大学院・文学研究科, 教授 (80160844)
伊坂 青司 神奈川大学, 外国語学部, 教授 (30175195)
山内 志朗 慶應義塾大学, 文学部, 教授 (30210321)
城尸 淳 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (90323948)
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Keywords | 感覚 / 懐疑 / モリヌー問題 / 空間認知 / 主体 / 造形 / 感応 / アニミズム |
Research Abstract |
平成21年度は、『空間と形に感応する身体』(東北大学出版会、2010年)に結実する研究を展開した。すなわち、そこでの研究成果は、まさしく感覚器官である「身体」が、身体の外部の<空間>や<環境>、<眺め>や<音>などに「感応」することを介して、自らの制約ある身体性を超え出て、時には無限なものや絶対的なものへと到ることを明らかにすることを通して、近代合理主義の厳然たる枠組みであった「心」と「身体」との二元論から脱する身体観への理路を切り拓いたと信じる。敢えてアニミズムの復権とまでは言わないが、景色や気象、すなわち風のそよぎや窓打つ雨音、あるいは暮れなずむ朧な宵闇などの外界の様相に感応する、私たちの「気色」や「気性」、さらには祈りの音楽や舞踊での即興を通して、身体の制約を超えて行く営みなどの存立規制が、幾らかでも明らかにすることによって、感覚が「知」の根底にあることを如実に示すことができた。 これにより、「知」が、感覚に端を発し、その中核に感覚知を担う、その構造の解明にも繋がった。それは、本来、感覚的な認識を疑う懐疑論が近代に到って、むしろ主観的な感覚知に立脚することによって、超越的な思索の正当性を疑うという、「懐疑」のシフト変換を来たしたことを明らかにすることで、「観念論」の淵源を確認するという成果にも繋がった。こうした研究を通して、主体の確立は、感覚知によってもたらされる反面、主体が、感覚を通して客体に「感応」することによって、その孤立した単独性を捨て、むしろ客体へと同一化してゆく現場を、ドイツ観念論に即して明らかにすることによって、主体と客体とは対峙し合う二元的なものであるだけでなく、互いに融合してゆく場面のあることを分析、解明することにもなった。理性的な知が感覚知を排したところに拓かれるのではなく、感覚知を介して、感覚を取り込むことによって成り立つことを明らかにしたことによって、極端な主知主義として理解されてきた近代合理主義の理解を是正できたものと信じる。 昨年度の研究よって、「知」ではなくむしろ「感覚」を介してこそ、主体と主体との隔壁も解消されることを「感応」の機序として明らかにできたところから、「共通感覚」の重要性が改めて際立たされることになってきた。もとより、五感を統べるところに想定された「共通感覚」が近代に到って、「共感」として人と人とを繋ぎあう感覚として意味合いを変える一方で、「コモン・センス(常識)」として、誰もが持っているべき「共通知」の意味を併せ持ち、さらには、「良心」へと、内面化・深化されたことが、「知」の成り立ちを考究する際にも避けては通れない問題であることが浮かび上がってきた。言い方を変えるなら、「愛」や「情」を手がかりに「共通感覚」を捉え直すことを通して、改めて「主体」の存立機制を明らかにするべきところへ辿り着いたことが成果の概要である。
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Research Products
(28 results)