2011 Fiscal Year Annual Research Report
グローバル化時代における文化的アイデンティティと新たな世界文学カノンの形成
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20320052
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
沼野 充義 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (40180690)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
野谷 文昭 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (60198637)
柴田 元幸 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (90170901)
加藤 有子 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 助教 (90583170)
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Keywords | 世界文学 / 翻訳 / 広域英語圏文学 / ラテンアメリカ文学 / ロシア東欧文学 / 亡命文学 / 現代日本文学 / 文学的カノン |
Research Abstract |
平成23年度は、「現代世界文学と翻訳」を主要課題とし、広域英語圏、広域スペイン語圏、ロシア東欧圏の三つの分野を主要な領域としつつ、世界における日本文学の受容の広がりも視野に入れて研究活動を行なった。 具体的には研究代表者・分担者のそれぞれの地域に即して研究を進め、成果を持ち寄って世界的な視野を得るようにつとめた。また、日本文学が各国語にどのように訳され、受容されているか、あるいは外国文学が日本語にどのように訳され、受容されているかを視野にいれ、その際生ずる言語・文化的問題点も検討した。野谷のラテンアメリカ文学と日本の関係についての研究成果、および沼野のロシア文学の日本への影響などが、この方向での主たる成果である。 今年度は研究の進展と海外の研究者との交流の深まりにともない、欧米だけでなく、東アジアとの関係も重視しながら、研究活動を行い、予期していたよりも大きな成果を挙げた。柴田の翻訳を主題としたPESETO会議の組織と報告、沼野の第3回東アジア・ロシアユーラシア研究学会におけるパネル「近代日本文学とロシア」の組織などがその主な成果である。 また加藤はヨーロッパ辺境地域における多言語的文化のあり方の研究を進め、翻訳によらないマイナー言語のネットワークの可能性という新たな方向の探究も視野に入れて成果をあげつつある。加藤の博士論文をもとにした著書「目から手へ-ブルーノ・シュルツ」も、東欧文学の世界文学との関係に大きな示唆を与える業績となっている。 各分担者のそれぞれの専門を生かしたこれらの研究を統合することはなかなか難しいが、幸い、平成23年はアメリカの比較文学者ダムロッシュ教授を招待して世界文学について大規模な国際シンポジウムを組織し、書物の新しい形態を探るポーランドのバザルニク、ファイフェル氏を招いて講演会などを開催でき、これらの多様な研究を総合して考える道筋をつけることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
代表者と分担者4名のそれぞれの専門地域を生かした著書・論文・学会発表などの研究成果は当初の計画以上に充実しており、翻訳研究、ラテンアメリカ文学の日本における受容、ロシア東欧の多言語的文化、東アジアにおける翻訳、といった分野において、成果を挙げ始めている。特に東アジアとの研究交流が発展したことは、予期以上の成果であった。 ただし扱っている分野が広範で多様なため、それをどのように統合して全体としてのヴィジョンを打ち出すかが重要である。この点に関しては、各種国際学会等の組織を活発に行うことを通じて(これも当初の計画以上の活動を行い、強い反響を得ることができた)、多分野の研究者の共同討議の場を積極的に設けることができ、研究最終年度に向けての準備が整ったと自己評価している。ここで言う各種国際学会等とは以下のようなものである。 (1)第3回東アジア・ロシアユーラシア研究学会(2011年8月28日、北京)におけるパネル「近代日本文学とロシア」 (2)ディヴィッド・ダムロッシュ氏(ハーヴァード大学教授)を招待して行った国際シンポジウム「世界文学とは何か?」(2011年11月12日、於東京大学) (3)バザルニク、ファイフェル氏を招いて行った講演会「リベラトゥーラ-新しい文学ジャンル」(2011年12月2日、於東京大学) また沼野が編者の一人として加わっている東大出版会による全5巻の「ユーラシア世界」刊行に向けて、この科研プロジェクトの協力のもとに2010年から2011年にかけて粘り強い編集作業を続け、共同研究会を重ねてきた。その企画の進捗も、本研究成果の一環として位置づけられる(なお5巻のシリーズは、2012年5月から毎月一冊の予定で刊行が開始される運びになった。ここには沼野および加藤が論文を寄稿している)。
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Strategy for Future Research Activity |
各研究者の個別の専門を生かした研究成果と蓄積はすでに十分なものと判断しており、研究計画の変更はない。ただし、今年度は最終年度にあたり、その多様多彩な研究成果を統合し、当初から掲げてきた「グローバル化時代における文化的アイデンティティと新たな世界文学カノンの形成」という主題のもとにまとまった形にすることを目指して、いっそうの努力を重ねる必要がある。 幸い、学術振興会からは、国際研究集会のための助成金をいただけることが決まり、平成25年3月に、内外の第一線および若手新進気鋭の研究者をできるだけ多く招いて国際シンポジウム「グローバル化時代の世界文学と日本文学-新たなカノンを目指して」を開催できる見通しになった。これは本研究の総まとめとしての意味も持ち、その会議報告・討議はできるだけ早く単行本として出版し、成果を世に問いたいと思っている。
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Research Products
(23 results)