2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20340076
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
渡辺 純二 大阪大学, 大学院・生命機能研究科, 准教授 (60201191)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木下 修一 大阪大学, 大学院・生命機能研究科, 教授 (10112004)
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Keywords | 物性実験 / 光物性 / 光散乱 / ゆらぎ |
Research Abstract |
本研究の目的は、量子論的な揺動散逸定理に基づく光散乱スペクトルの基礎表式の適用限界を実験的に明確にするとともに、適用できなくなる起源を明らかにすることである。そのために、拡がりの大きいモードをもつ系を対象としてストークス散乱と反ストークス散乱の強度比を精密に測定し、光散乱の基礎表式から期待されるボルツマン因子との精密な比較を行った。これまでに、液体の緩和モード、KDP結晶の分極緩和モード、酸化チタン結晶のEgフォノンモードのラマン散乱スペクトルにおいて、ストークス・反ストークス散乱比がボルツマン因子からずれ、モードのピークにおける値に近づく傾向を示すという結果が得られた。 これらの観測されたボルツマン因子からのずれは、定常状態に対するカノニカル分布を基礎におく光散乱の理論からは説明することができず、通常考慮されていない緩和過程の重要性を示している。系のコヒーレンスに不可逆な緩和が起こるとすると(位相緩和時間τc)、エネルギーに不確定さ△E=h/τcが生じるため、この範囲内では各エネルギー値Eに対してカノニカル分布を適用することはできない。その結果、強度比が△Eの範囲内でボルツマン因子からずれ、一定の値をとることが期待される。光散乱のスペクトル形状の解析において、位相や分布数の不可逆な緩和を取り入れる場合、それは近似的解析であると通常は理解されている。しかし、観測された強度比のボルツマン因子からのずれは、不可逆な緩和過程を考慮することが、近似としてではなく、本質的に重要であることを示している。今後、この不可逆な緩和過程の本質を明らかとすることが課題である。
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