Research Abstract |
シリコンを添加ダイヤモンドライクカーボン膜(以下,Si-DLC膜)は非常に低い摩擦係数を示すことで注目されている.Si-DLC膜の摩擦係数は膜中のシリコン含有量の増加と共に減少するが,シリコン含有量の増加と同時に膜はポリマー化され膜の硬度は減少する.一般的に,摺動の際,摩耗率は硬さに反比例するので,膜が軟化することは膜の摩耗寿命の短縮を意味する.Si-DLC膜の低摩擦特性は摩擦試験中に生成されるシリコン酸化物の摩耗粉に深く関係があることが知られている.このことから,低摩擦,高硬度を併せ持つ膜を開発するにあたり,Si-DLC膜の表面に酸素プラズマを照射することで,膜の最表面に形成されるシリコン酸化物の量を制御することで,摩擦係数を制御することが可能であると考えられる.本年度は,プラズマ利用イオン注入成膜法を用いてSi-DLC膜を作成し,有機分子との吸着特性を調べることを試みた.また,作成したSi-DLC表面に酸素プラズマ処理を施した後,有機分子との吸着特性の変化を調べるための基礎実験を行った.Si-DLC膜は,プラズマ利用イオン注入成膜法によって,成膜圧力約0.3Pa,正の高電圧パルス2.0kV,負の高電圧パルス-5.0kV,パルス周波数4kHzの条件で作成した.原料ガスにはトルエン(C7H8)とテトラメチルシラン(Si(CH3)4)の混合ガスを用い,その流量比を変えることで膜中のシリコン含有量を0から11at%まで制御した.基板は(100)面の単結晶シリコン板を使用し,基板の前処理として,20分間のAr+イオンボンバードメントを施した.酸素プラズマ処理はSi-DLC膜を作成した後,同じ装置を用いて試料を大気にさらすことなく行った,以下に得られた主な結果を示す. (1)Siを添加することで有機分子の吸着特性が向上した.これはシリコンが増加するとともに吸着サイトの数が増加し,吸着速度が上昇すると考えられる.シリコン含有量が増加すると膜中のsp3結合が増えるといわれており,シリコン添加によりDLC膜に構造変化が起こる(シリコンを含んだクラスタ内に新しい吸着サイトが生成される)ことで吸着速度が上昇したと考えられる.また,Si-DLC膜表面に酸素プラズマ処理を施すことで,有機分子の吸着特性は改善された.これは,Si-DLC膜表面に酸素プラズマを照射することで,有機シラン分子の吸着サイトである,シラノール基の密度が増えたためであると考える. (2)シリコン含有量の増加に伴い吸着サイトが増えてSAMの形成速度が速くなるとともに,Si-DLC膜とSAMの界面が安定化して摩擦特性が向上する. (3)浸積時間とともに島状のSAMの密度が増加し,最終的に直立した状態の単分子膜が得られた.SAM形成後の表面粗さはSi-DLC基板と同程度になる.
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