Research Abstract |
カオスを利用した通信の研究は1990年代に始まったが,その多くはカオス実数値軌道をそのまま利用するアナログ通信であり,現在隆盛を極めるディジタル通信の諸技術の上に直接載せることが困難と考えられる.一方,我々の提案手法は,カオス力学系をバイナリ系列の設計に役立てる手法なので,CDMAやOFDMなどの既存のディジタル通信技術に容易に適合できる利点を持つ.本年度は,まずシングルキャリアDS-CDMAにおいて,ガウス波形とカオス力学系に基づくマルコフ系列の最適化を行い,そのビット誤り率,周波数帯域制限からのはみ出しエネルギースペクトル密度の両方を勘案すると,従来法のルートレイズドコサイン(RRC)フィルタを上回ることを示した(ISSSTA2008).また,CDMAのチップ波形は,従来シンボル間干渉をゼロにするナイキストフィルタの一種であるRRCがよく用いられていた.一方,時間領域・周波数領域のエネルギー集中度の点では,SlepianのProlate Spheroidal Wave Function(PSWF)が最適であるが,これはナイキスト条件を満たさない.研究代表者らは,CDMAのスペクトル拡散符号が畳込まれた擬似乱数信号のエネルギー集中度による符号と波形の同時設計するMarkov Coded PSWFを議論した.Markov coded PSWFは設計が複雑であるが,ガウス波形とマルコフ符号の組み合わせは,簡単に設計できしかも性能も十分良いことが示された. 第4世代携帯に組み込まれる予定のOFDM通信は,スペクトル利用効率が高く,マルチパスフェージングに強いことで注目を集めているが,データを並列伝送するサブキャリアが周波数軸上でオーバーラップしており,厳密なキャリアの直交性が要求される.このキャリアの直交性は,時間・周波数の同期を高い精度で保持する必要があり,ドップラーシフトの影響を受ける移動体通信では,技術的な困難が伴う.研究代表者らは,完全な直交性を最初から放棄し,干渉を敢えて許容するCDMAの設計方針を捨てるべきではないと考え,OFDM(直交周波数分割多重)ではなく,擬似直交周波数分割(QuasiOFDM)によるマルチキャリアCDMAを提案し,その性能評価を行った(Globecom2008).
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