Research Abstract |
本年度に実施した研究内容と成果の概要は次の通りである。 (1)巣穴底生生物の住活動場が土砂環境の選択行動とパッチ形成に果たす役割を明らかにするために,新たに開発した干潟生態土砂環境再現水槽を用いたコメツキガニの土砂環境選択・パッチ形成実験ならびに土砂環境探知能力の検証実験,ならびに,現地土砂環境動態を考慮した最適住活動モデルの構築と土砂環境/パッチ形成の実態調査を一体的に行った.その結果,当該生物は,巣穴発達のための最適・限界サクション場を探知する"生物センサ"を有し,地表サクションの空間勾配に基づいて,住活動に適した場を自ら選択して巣穴活動を行うことを世界で初めて明らかにした.そして,生物個体群(パッチ)の分布が,実験・現地調査結果の双方で,提案する最適住活動モデルによる予測と見事に整合するかたちで現れることを示した.これらの結果は,巣穴底生生物が,自らの住活動に適した土砂環境を選択してパッチを形成することを実証するものであり,最適採餌に基づく生息環境選択に関する既存の概念を覆すとともに,将来の生態応答予測にも活用が期待できる. (2)生態/土砂物理の関わりに着目して筆者らが開拓・推進している生態地盤学を新潟県の3つの海浜に展開し,現地土砂環境/底生生物分布の一体調査と一連の室内試験および分析を行った.その結果,砂浜の種類やタイプ(Reflective, Intermediate, Dissipative)に依らず,空気進入サクション値を基準としたサクションが砂浜潮間帯の飽和・不飽和,緩密,硬さ軟らかさ等の多様な生物住環境の発現を支配していること,そして,全海浜を通じた優占3種の小型甲殻類の生息限界域と高密度域の分布が,多様な生物住環境とともに生物住活動の最適・限界条件を支配するサクションによって統一的に規定できることを初めて明らかにした.本研究で得られた知見は,砂浜の底生生物分布に関する従来の隆路を突破しており,砂浜海岸における生態環境・水産資源の保全・管理に有効に資することができる.
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