Research Abstract |
単細胞性シアノバクテリアSynechococcus elongatus PCC7942は,絶対光要求性の光合成独立栄養生物(obligate photoautotoroph)であり,連続明条件下ではゲノムワイドな概日転写リズムを示す。興味深いことに, S. elongatusを暗条件に移すと, kaiABC時計遺伝子群のmRNAは暗条件への移行後直ちにゼロレベルまで低下し,一切振動を示さなくなる。それにも関わらず,時計蛋白質KaiCのリン酸化リズムは持続することから,概日振動は基本的に翻訳後修飾レベルで起こり,転写制御に限っていえば,概日時計は夜間に出力できないのではないかと考えられた。前者については試験管内再構成系の構築により実証されたが,後者については具体的には検証されてこなかった。 そこで,私たちはマイクロアレイ解析を行い, kai遺伝子以外の大多数の遺伝子発現も同様に暗抑制され,夜間に総mRNA量が劇的に低下することを見出した。一方で、少数の遺伝子群については,暗条件下で強い発現誘導がかかることも確認された(岩崎ら,準備中)。これらの暗誘導性遺伝子群の誘導は,暗条件への移行後10分以内に起こる早い反応であり,そのいくつかについては転写開始点の決定を行った。 さらに,概日リズムと明暗応答の二つの制御の相互関係を明らかにするために,明期12時間目から暗条件に移した場合と、明期6時間目から移した場合とで暗誘導性に違いがでるかどうかを検討した。その結果,いくつかの暗誘導遺伝子については,その誘導性に顕著な違いが見られることを見いだした。また,これらの暗誘導パターンは、kai遺伝子破壊によっても著しい影響を受けていた。これらの結果は,従来のモデルと異なり, Synechococcusの概日時計が,暗期においても転写を制御しうることを示している。
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