Research Abstract |
常に湿潤である熱帯雨林生態系であるマレーシア・ランビル国立公園サイトにおいて,強度乾燥が生じた際の生態系の反応を調べるため,降雨遮断・強制乾燥実験装置を設置し,短期強度乾燥が展葉・開花,樹木内の栄養塩・水収支の動態,土壌分解系に与える影響を見る観測を開始した. 熱帯季節林サイトであるカンボジア・カンポンチュナム試験地には郷土(天然林)樹種としてフタバガキ科樹木2種,外来(人工林)樹種としてアカシア・ユーカリが混在する.熱帯季節林における天然林と人工林の水利用の差異を検出することを目的として,今年度は,各樹種それぞれの水利用特性,基本的気象特性の観測を開始した.また,個葉レベルの生理(光合成・気孔開度)特性の観測も開始した. 土壌水分環境の記述は,研究対象となる生態系におけるエネルギー・物質循環の記述の基本である.そこで,明らかな降雨パターンの違いを持つマレーシア熱帯雨林とタイ熱帯常緑季節林の2つの研究サイトにおいて,降雨の季節変動と年々変動のそれぞれが士壌水分動態に与える影響を調べた.降水現象を確率過程と考え,過去の長期降水資料により確率密度関数パラメータを決定した.水文素過程(蒸発散・流出・貯留)を精密に記述した水収支式に降水確率分布を代入,整理して土壌水分確率分布を解析解として得た.水文素過程を表現するモデルは,両研究サイトにおけるこれまでの成果により構築され,また,そのモデルパラメータが決定された.まず,降水の確率パラメータの解析により,マレーシア熱帯雨林サイトでは少雨とエルニーニョの生起に密擦な関係が認められた一方,タイ熱帯季節林ではエルニーニョと乾燥に有意な関係が見られないということ,タイ熱帯季節林では長期乾燥傾向が見られるということ,が明らかになった.モデル計算によると,降水の年々変動を考慮すると土壌水分乾燥域の生起確率が増加した.これは,降水の年々変動は生態系に一定のリスクを与えるという意味でもある.様々なモデルパラメータを用いて,このような確率計算を行うことで,主に植物にとって利用可能水分に関する生態系の頑健さは,マレーシア熱帯雨林では土壌物理性,タイ熱帯季節林では植物の根系深度と湿潤季から乾燥季に持ち越される水分に起因することが明らかとなった.
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