Research Abstract |
アスベストの発癌に関連する免疫動態の解明として,アスベスト曝露が全般的に免疫担当細胞に対して,どのような影響を及ぼし,かつそれが発癌という観点にてそこに関与するか,という視点で解析を進めているが,そのためには腫瘍免疫が減衰するということが,最も妥当性があると思われる。その観点からの観察としてはまず昨今話題の制御性T細胞の機能ということを考えなければならない。アスベストのコアとなっているSiO2であるシリカの場合には,珪肺症で自己免疫疾患が合併し,そのためには自己寛容の破綻が必須で,実は制御性T細胞はシリカによる慢性活性化によって,FAS分子の過剰発現によって早期の喪失が生じ,それによって数の減弱から自己免疫異常への道筋が形づくられることが想定されることを明らかにしてきた。またアスベストの場合には,我々の樹立している低濃度長期曝露の細胞株モデルによる観察では制御性T細胞機能の亢進が確認され,いくつか腫瘍免疫に関連するケモカイン受容体の発現低下も認められた。但し,制御性T細胞についてはマスター遺伝子であるFoxP3の発現度合いやそのメチル化の解析などでは,相互に解釈の困難な結果も得られており,今後詳細な検討が更に必要であることも判明してきた。しかしながら,これらの成果は,アスベスト曝露者が基盤として腫瘍免疫の減衰が生じることによって,成書などにも記されているように悪性中皮腫や肺癌のみならず,喉頭癌や消化管の癌のリスクが高まることと合致した所見につながるものと考えられた。
|