Research Abstract |
A群レンサ球菌(GAS)はヒトを唯一の宿主として,皮膚や咽頭に局所性化膿性疾患を主に惹起する.病態が認められる解剖学的部位の多様性は,GASが産生する病原因子群,GASのヒト組織への指向性や宿主因子等に起因すると考えられる.近年,GASをはじめとするヒト病原性レンサ球菌が線毛様構造物を産生すると報告されてきたが,その生物学的機能や発現様式は完全には解明されていない.本研究では,M49型臨床皮膚分離株を用いて.GASが産生する線毛の機能と発現機構について検討した.その結果,線毛が皮膚角化上皮細胞への付着因子として機能することを明らかとした.そして,線毛タンパクが,細胞外マトリックスタンパクを介さず,角化上皮細胞へ結合することにより,菌体の付着が成立することが示唆された.さらに,線毛構成タンパク組換え体の皮膚角化上皮細胞への付着を検討した結果,副構成タンパクが付着能を有することが推察された.これまでに,M49型株にっいて,低温培養時に線毛産生能が上昇することを明らかにしたが,レポーターアッセイを用いた解析により,転写レベルでの線毛発現の上昇が認められた.複数の血清型臨床分離株について,温度感受性の線毛発現を検討した結果,転写因子であるNraの有無との相関が確認されたため,Nraの関与を検討した.Nra欠失株では,低温培養時においても線毛の発現が認められなかったことから,Nraが線毛遺伝子の発現に対する正の調節因子として機能することが明らかになった.さらに,Nraの転写レベルは培養温度による影響を受けず,Nraのタンパク発現は低温培養時に上昇したことから,Nraの転写後の翻訳調節が,温度感受性の線毛発現に関与することが示唆された.これらの結果は,GASのヒトへの定着機構や組織指向性の解明への一助となる可能性が考えられる.
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