Research Abstract |
本年度新たに踏査した寺院を含め,これまでに計143ヶ寺の所在を確認することができた。しかし,既に寺院そのものが消滅し建造物の痕跡すら確認できない寺院,建て替え,あるいは旧基壇を覆う形で新築した寺院も相当数に上る。現段階では,44ヶ寺がParmentier調査対象寺院(洞窟寺院を除き計50ヶ寺)とほぼ同定されているが,残りの6ヶ寺についてはまだその所在や現況を確認できていない。 さらに本年度は,シェンクアンのシム(仏堂)建築の特徴を考察する上で有用と思われる遺構に関し,実測調査を実施した。繁茂する草樹の伐採は可能な限り実施したが,土砂や煉瓦の除去,発掘が必要な遺構は除外したため,基壇の部分断面のみ記録した遺構を含め,対象としたのは計32棟であった。平面に関しては26棟を対象としたが,Parmentier著書掲載平面図と重複する5棟,記述内容から平面形式がわかる2棟を除いた19棟のうち,Parmentierによる分類,すなわちポーチの有無と位置,室内柱の有無による平面形式の分類に当て嵌められる程度にその平面形式を推測できる遺構は14棟であった。 その結果,Parmentier調査時には確認されていないタイプのシム建築が存在することが明らかになった。とはいえ,Parmentierによる分類が示すように,ルアンパバーンやヴィエンチャンに比して建築規模が小さく,加えて入母屋を載せるシムがシェンクアンに多いのがひとつの特徴であることに変わりはない。同じく建築規模が小さく入母屋を載せるシムは,タイ東北部でも散見されるが,前後両方にポーチを持ち,室内に独立柱が立っ形式は現時点では確認できていない。したがって,室内に独立柱が立ち,梁行が3問,前後ポーチ含め桁行が5~6問程度の規模を有する入母屋を載せる形式が,シェンクアンにしか見られないシム建築といえる。
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