Research Abstract |
本研究の目的は,身体機能を補う機器がどれだけユーザ本意のものであるのかに焦点をあて,a)身体機能補完技術の種類によって身体化の有無が異なるのかどうかを調査し,その理由を探り,b)全盲者の白杖利用を対象として対象認知のために必要となる感覚情報を特定し,感覚情報と機器の身体化との関係を明らかにすることで機器の身体化を指標とする身体機能補完技術の評価システムモデルを構築することである.本年度は,白杖を用いた触知覚に関する基礎的な知見を得るため,晴眼大学生を対象として,利き手で握った白杖を用いた場合の肌理の粗さ感覚について実験的に明らかにした.測定方法としてはマグニチュード推定法,刺激としては粒子径の異なる耐水研磨紙を用いた,指で直接触った場合との比較を行うために利き手の人差し指(示指)も対象とし,前年度までに行ってきている硬さ感覚の研究において聴覚情報の有無が感度に影響していることから聴覚情報の有無も条件とした,その結果,1)白杖で間接的に触る場合には,聴覚情報がある条件では示指と同程度の感度が得られ,無い条件では示指よりも相対的に感度が低く,2)示指では,聴覚情報の有無はほとんど影響しなかった.前年度までに検討された硬さ知覚における晴眼大学生は,示指よりも白杖を利用した方が,聴覚情報の有無に関係なく,感度が高かった,しかし,本研究では白杖を用いた場合に聴覚情報の影響が見られ,聴覚情報が無い白杖条件で最も感度が低かった.これは,硬さ知覚における全盲者の白杖条件と同様の傾向であり,晴眼大学生においても,日常生活における視覚・聴覚情報の利用の点などから,触覚情報だけでは認知することが難しい感覚属性もある事が考えられる.これにより,a)触覚と聴覚というマルチモーダルな情報提供を行う道具としての白杖に関する基礎的知見が得られ,b)それに対応する環境側のデザインを考察するための手がかりがさらに得られた.
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