2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20510258
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
大越 愛子 Kinki University, 文芸学部, 教授 (00223777)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
井桁 碧 筑波学院大学, 情報コミュニケーション学部, 教授 (40306105)
白水 士郎 近畿大学, 文芸学部, 准教授 (10319759)
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Keywords | 代理出産 / 自然主義 / 生命倫理 / 世代間倫理 / 優生思想 / ジェンダー / バイオポリティクス / ハンセン病 |
Research Abstract |
生殖と身体をめぐる、いわゆる「自然主義」的思考は、一般に我々の言説の奥に深く根づいており、広範であるだけでなく歴史的にも遠く遡行しうる。現代の「生命倫理」の課題を真に受け取め直すためには、一般に浸透する臆見からそうした思考の刻印を析出するのみならず、文化によって構造化された神話や伝承における表象にまで視野を及ばせねばならないだろう。そうした作業を4年間にわたって行うための足固めが本年の課題だった。 研究会を7月と12月の2回開き、それぞれ大越愛子と連携研究者の森岡正博氏(大阪府立大学)の基調報告に基づいて質疑を行った。大越は、「懐胎労働はいかなる労働か」をテーマに、学術会議の答申として出されている「代理出産」をめぐる言説に潜む自然主義の問題点をえぐり出した。森岡は、「世代間倫理」が提起する自然主義の問題点と展望を論じた。調査活動としては、大越が10月に地域医療と生殖ネットワークについて、信州地区で活躍する国立信州大学病院の助産師・原ゆかりさんに聞き取り調査を行った。また連携研究者・熊本理抄(近畿大学)のコーディネートにより2009年3月に沖縄の国立ハンセン病療養所「愛楽園」で聞き取り調査を行い、70年に及ぶ同園の歩みと共に、国家によるハンセン病患者の身体と生殖の管理システムを実地に調査・考究した。 また研究成果の発信を兼ねて大越と井桁が8月に韓国・ソウルで開かれた世界哲学大会に参加し、「哲学はアンティゴネーの問いに答えうるか」というテーマで、パネル発表を行った。ギリシャ悲劇において家族の身体の生死を司る女性役割を担うアンティゴネーが、哲学的ロゴスの原理に何を問いかけたか、という問題に関する基調発表が活発な質疑応答を誘発し、今後の研究の進展について新たな視点も獲得された。
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