2009 Fiscal Year Annual Research Report
ギリシア哲学における快楽主義の系譜の再検討とその史的意義の再評価
Project/Area Number |
20520011
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
三浦 要 Kanazawa University, 人間科学系, 教授 (20222317)
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Keywords | エピクロス / 快楽主義 / 静的快楽 / 動的快楽 |
Research Abstract |
本年度は、昨年度に検討したソクラテス以前哲学者のデモクリトスの影響を、自然学のみならず倫理学においても色濃く残しているエピクロスの快楽主義的倫理学説を中心的に考察した。彼は、苦痛と苦悩のない状態を人生の目的とし、快苦を長期的視野から理性的に評価しつつ生きる生き方を示したが、このときしばしば問題となるのが動的快楽である。これをキュレネ派と関連させて身体的快楽と解することはできない。むしろそれは魂における「愉楽」であり、つまり結果としての快楽でなく--それは魂における平静と身体における無苦としての静的快楽である--静的快楽へと移行する過程にある快楽である。魂における快楽と身体における快楽は、それぞれが限度における充足の結果であるときに、至福な生に直結する。一方だけがえられても幸福な生とは呼べないという意味で、これらの間には、強度や持続などの点での相違はあっても、優劣・主従の差はない。両方の快楽の実現が究極の生の目的ということになる。 善悪を快苦に還元するエピクロス快楽主義の出発点である「心理的事実」(cradle argumentによる)がまさに事実としての普遍性をもちうるのかどうかはなはだ疑問であり、またその規範的倫理学説は個人の閉じた生における幸福の実現を目標においているかぎりで共同体における倫理の基礎を与えない。自然学的基盤を背景に、快楽だけで体系的に首尾一貫させようとし、しかも競合する哲学諸派との応答の中で形成されたために、その快楽主義は多くの問題を含んでいる。しかし人間の行動の原理をいかなる快楽や感情にも求めない倫理学説も心許ない。快楽と人間が親和的であるという洞察は依然として「真理」であるからには、彼の快楽主義は少なくとも個人倫理の源泉を考える上でも興味深いものである。なお、当初予定していたキュレネ派については未だ十分に検討できなかったので、次年度に改めて扱うこととする。
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Research Products
(1 results)