2010 Fiscal Year Annual Research Report
ヨーロッパ中世におけるキリスト教および哲学のインカルチュレーション
Project/Area Number |
20520017
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
水田 英實 広島大学, 大学院・文学研究科, 名誉教授 (70108257)
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Keywords | 哲学 / キリスト教思想 / ヨーロッパ中世 / インカルチュレーション / 多文化社会 / 異文化受容 |
Research Abstract |
本研究の目的は、トマス・アクィナスの哲学思想の立脚点から、西欧中世思想におけるキリスト教および哲学のインカルチュレーション(文化内開花)のあり方を解明し、そこからさらに非ヨーロッパ世界におけるキリスト教および哲学のインカルチュレーションの可能性を問うことにある。 それ自体として普遍的なものが、歴史的現実において特殊の相のもとに多様な仕方で存在するという点で、「キリスト教=西洋の宗教」「哲学=西洋哲学」といった等式について類似した吟味を加えうると考えられるところから、哲学やキリスト教はいかなる意味で文化の一部に含まれ、また含まれないかという問題を様々に問い直すことができる。 こういう見通しをえた上で、研究実施計画にあげた二つの課題について成果を得ることにつとめた。 すなわち、(1)いわゆる十二世紀ルネサンスの時代から十三世紀にかけて西欧思想界において、イスラム文化との交渉を伴う仕方で、キリスト教神学がどのようにしてアリストテレス思想との対決/受容を迫られたかという点からの考察について、「個の概念に関するトマス説」を『西洋思想における「個」の概念』(慶應義塾大学出版会刊)に収録した。 また、(2)十六世紀以降における非西欧世界での、哲学の受容のあり方およびキリスト教思想の受けとめられ方について、サン・カルロス大学(フィリピン・セブ市)を訪問し、討議を行い、研究発表会に参加して得た、現在のフィリピンにおける具体的な事例の調査研究の成果を通して、『中世ヨーロッパの祝宴』(渓水社刊)に収録した「祭りの中の宴-ミサ聖祭の場合-」という特質が、いまも一貫していることを確認することができた。 以上のとおり、今日の多文化社会において異文化受容という重要な課題を果たすために、哲学の果たしうる役割を模索する上で、示唆に富む成果をあげることができた。
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Research Products
(2 results)