2010 Fiscal Year Annual Research Report
国宝「紅白梅図屏風」の制作技法・材料(金箔・有機色料・型)に関する調査研究
Project/Area Number |
20520101
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Research Institution | (財)エム・オー・エー美術・文化財団(学芸部) |
Principal Investigator |
内田 篤呉 財団法人エム・オー・エー美術・文化財団(学芸部), 学芸部, 研究員 (00426438)
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Keywords | 紅白梅図屏風 / 金箔 / 技法 / 銀箔地硫黄酸化・燻蒸説 |
Research Abstract |
平成21年度は、粉末X線回折測定、蛍光X線分析の調査を実施し、金地は金箔と判断できる分析結果を得ることができた。また流水部全体に銀と硫化銀を検出した。これを受けて、平成22年度は中井泉氏(東京理科大学教授)が流水部の粉末X線回折測定を行った。その結果、流水の所々の銀色に輝く部分は銀箔で、暗褐色部は硫化銀を検出した。技法は、「銀箔地硫黄酸化・燻蒸説」と考えられるため、尾形光琳の自筆覚書帖「鉛銀のサビ」(重文・尾形光琳関係資料)に記録された薬剤の復元調合を奥村公規氏(金工家)に依頼した。銀、鉛、鉛銀のテストピースを作成し、その薬剤を塗布した結果、銀箔が最も近い色調に変化した。また調査の過程で、本紙は竹紙の可能性を複数の研究者が指摘したため、本紙の材質調査を急遽実施した。増田勝彦氏(昭和女子大学大学院教授)並びに大川昭典氏(元高知県立紙産業技術センター技術第2部長)は、日本製の間似合紙とする見解を示し、宍倉佐敏氏(女子美術大学非常勤講師)は、竹紙の可能性を示唆した。 本年度は、科学調査の最終年度に当たるため、研究結果のまとめと流水部分の技法調査に重点を置いた。流水部の技法は、銀箔を硫黄か「鉛銀のサビ」の薬剤などで暗褐色に変化させたものであることが判明した。紅白梅図屏風が描かれた当初の姿は、金箔地に紅梅と白梅が描かれ、中央の流水部分は暗褐色に色付けされた銀箔地で、流水は銀色に輝いていた。長年の美術史上の課題であった紅白梅図の技法問題が解明され、当初の屏風の姿が判明した成果は大きい。 本調査は、科学者をはじめ美術史家、伝統工芸の技術者、文化財修復技術者の協力を仰いだ。3ヵ年の調査を通して、目視では確認できない材質を科学調査で解明することができるが、自然科学データのみに頼ることも危険で、日本画家や工藝家が伝統的に蓄積してきた技術や経験を踏まえて研究を進めることの重要性及び学際的な研究方法の構築が重要であることを再確認した。
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Research Products
(3 results)