2011 Fiscal Year Annual Research Report
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20520111
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
池上 純一 埼玉大学, 教養学部, 教授 (40092126)
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Keywords | リヒャルト・ワーグナー / 音楽学 / ロマン主義 / オペラ / 批判的校訂 / コジマの日記 |
Research Abstract |
1 リヒャルト・ワーグナーの音楽劇Musikdramaへの橋渡しをなす初期のロマン的オペラ『タンホイザーとヴァルトブルクの歌合戦』(1845)についてテクストとスコア(総譜)の両面に渡って各種異稿を収集し、徹底的な批判的校訂を加えることにより、従来「ドレスデン版」(1845)「パリ版」(1861)あるいは「ドレスデン版」(1875)と呼ばれながら必ずしも実態が明瞭ではなく錯綜していた「版」と「稿」を整理し、『タンホイザー』をめぐる版の問題に一定の解決をつけた。こうして再構成された「1860年版」と「1888年版」について、音楽学者三宅幸夫氏との共同作業により、ドイツ語/日本語によるテクストの対訳に詳細な訳注・音楽注を付し、さらに解題および歴史的/文献批判的資料を掲載した日本ワーグナー協会監修『対訳タンホイザー』に取り組んだ。同書は2012年5月、五柳書院より刊行される予定であり、日本における音楽文化研究に大いに資するものと期待される。 2 ワーグナーの最初期のロマン的オペラ『さまよえるオランダ人』について、平成25年度における同作品の対訳本の刊行に向けて各種資料の収集に努めるとともに、文献批判的手法によるテクストの確定を行なった。 3 ワーグナー研究にとって基本的な資料であるCosima Tagebuecherを読み解き、詳細な注解を付した『コジマの日記』(東海大学出版会、全10巻)を刊行すべく、平成23年度には日記の1871年11月~73年4月に相当する部分の翻訳作業を進めた。刊行は平成25年度を予定している。 4 本科学研究費による補助を得て2010年度に完成させた同本ワーグナー協会監修『対訳ローエングリン』の成果にもとづき、2011年9月のバイエルン州立歌劇場の来日公演(『ローエングリン』)を機に国内外の専門家による国際シンポジウムを開催した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
Cosima Tagebuecherの解読と時代考証に想定以上の時間を要氏、当初平成23年中に予定していた『コジマの日記3』の刊行が遅れているため。その他の研究については、おおむね順調に推移している。
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Strategy for Future Research Activity |
科研費の最終年度にあたり、引き続きCosima Tagebuecherの翻訳・注解に励むとともに、対訳シリーズのうち未刊行の『さまよえるオランダ人』やワーグナー中期の芸術論文『ベートーヴェン』の翻訳・刊行により申請した「リヒャルト・ワーグナー研究」に一定の区切りをつけたい。
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