2010 Fiscal Year Annual Research Report
近代日本における西洋音楽の変容に関する研究-民俗芸能としてのラッパ文化-
Project/Area Number |
20520126
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
奥中 康人 大阪大学, 文学研究科, 招へい研究員 (10448722)
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Keywords | 西洋音楽受容 / 文化変容 |
Research Abstract |
当初の計画通り、平成22年度は長野県の諏訪地方における御柱祭、および熊本県における藤崎宮八幡宮のラッパ奏楽の調査(フィールドワーク等)に費やし、「民俗芸能としてのラッパ文化」の実態の一端を明らかにした。日本には19世紀に通信手段としてラッパが西洋から導入されたが、通信技術の発達に伴って用いられなくなった。しかし、諏訪大社御柱祭のような祭礼とむすびつくことで、あたかも民俗芸能のお喋子のような存在として生き残っている(ただし「民俗芸能」としては公認されていない)。御柱祭では数百~数千の人力で木材運搬をするときに、遠くまで音を響かせることが可能なラッパの合図を用いる。伝統的に、木材運搬には木遣り唄が用いられたが、現在は、伝統的木遣り唄(木遣り唄保存会)と共存しており、時には木遣り唄とラッパが連携し、巨大化した祭礼の運営をフォローしている。これは意図的に変化を選択することで祭礼のアクチュアリティを維持しつづける御柱祭の性格をよく示している。しかし、こうした実態とは別に、御柱祭の「本来の姿」「伝統的な御柱」の理想を求め、ラッパの使用を批判する人々も存在する。とくに近年はラッパ隊が大編成になり、曲目も増加傾向にあることから、ラッパに対する違和感・抵抗感が強まっており、その際、祭礼の伝統と真正性を論拠とするところが特徴的で、文化行政によって「公認された」文化(木遣り唄)が「公認されていない」文化(ラッパ)を駆逐・排除しようとする動きが注目される。同様の事は藤崎宮八幡宮のラッパの評価においても観察されることであり、祭礼を担う複数の社会階層の間における争点を明らかにした。
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