2009 Fiscal Year Annual Research Report
日本の交響曲--創作のモデルとオリジナリティ、及びその受容をめぐるメカニズム--
Project/Area Number |
20520137
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Research Institution | Musashino Academia Musicae |
Principal Investigator |
楢崎 洋子 Musashino Academia Musicae, 音楽学部・音楽学学科, 教授 (50254264)
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Keywords | 日本作曲界 / 交響曲 / 1930年代 / 非ヨーロッパ / オーケストラ |
Research Abstract |
日本の作曲界においてオーケストラ作品の創作が盛んになる1930年代を主な対象に、音楽雑誌における、日本の作曲家による新作オーケストラ作品に対する言説、記述を調査するとともに、そこに見られる傾向を、日本以外の非ヨーロッパ諸国と比較するために、今年度はカナダの職業オーケストラを対象に、20世紀前半の定期演奏会における撰曲傾向を調査した。その結果、日本においては、日本の作曲家による交響曲作品をめぐって、聴衆(評論家)と作曲家の間で、交響曲に対するイメージに齪齪があることが認められた。たとえば、聴衆は、独墺の交響曲を至上とみなす傾向にあり、オーケストラの定期演奏会の選曲にもその傾向が認められる。一方、カナダのオーケストラは、独墺の古典的なレパートリーに偏ることなく、名声を得ていない近現代の作品を採り入れ、指揮者についても、独墺の著名な指揮者を必ずしも志向することなく、英語圏の指揮者を招くなど、日本におけるほどの独墺至上主義は見られない。非ヨーロッパの文化圏の一例としてのカナダにおいては、聴衆、演奏家(演奏団体)、作曲家が、ほぼ同一の、しかし、それが絶対のモデルを提起することもない、ゆるやかな交響曲イメージを形成していったのに対し、日本においては、聴衆、演奏家(演奏団体)は、志向の対象をほぼ一つにするものの、作曲家はそこから孤立していたと思われる。したがって、日本の交響曲の作風は、聴衆と演奏家(演奏-団体)が求めるものに、むしろ異を唱えることで形成されていったと考えられる。
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