2008 Fiscal Year Annual Research Report
クルックシャンク研究-挿絵から見る英国ヴィクトリア朝の民衆社会
Project/Area Number |
20520206
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
中村 隆 Yamagata University, 人文学部, 教授 (00207888)
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Keywords | クルックシャンク / ホガース / R. ポールソン / エンブレム / 謎かけ / ホガース模倣 / ディケンズ / 『オリヴァー・トウィスト』 |
Research Abstract |
R. ポールソンは、画家と作家の共同作業の中から生まれる挿絵は、単なる挿絵ではなくemblemになると述べた。「エンブレム」とは、本文を忠実になぞるような、補足説明的な挿絵とは根本的に異なり、本文のいわば「解釈・批評"commemtary"」となるもので、本文が解かれるべき謎を持っているのと同様に、絵もまた解かれるべき謎を秘めている。このような時、挿絵は、本文の意味を単に受け止める存在(シニフィエ)であることを止め、挿絵もまた積極的に「意味」を発信するテクスト(シニフィアン)となる。ポールソンによれば、クルックシャンクの挿絵は、ホガースとは根本的に異なり、それ自体が意味を訴求するエンブレムの伝統の終わりを示しており、クルックシャンクは、結局、本文を忠実になぞる、いわば二流の挿絵画家である。 平成20年度は、このポールソンのクルックシャンク研究の示唆を受け、それへの反論を試みた。クルックシャンクもまた彼に先行する英雄的版画家のホガースと同様に、自己の挿絵の中に、一種の「謎かけ」を仕掛け、テキストにはなかった意味を独自に作り出すことに成功している。その具体的な方策は、周到で、念入りな「ホガース模倣」である。 たとえば、クルックシャンクは、ディヶンズの『オリヴァー・トウィスト』に付された-連の挿絵において、すぐれた構図感覚を用いることで、ホガースの有名ないくつかの版画を滑り込ませ、だぶらせる。しかも、自らの挿絵が内包するホガース的要素は、すぐにはわからないようにできているという点で「謎」を秘めたエンブレムでもある。クルックシャンクによる『オリヴァー』の挿絵は、本文の意味を単に受け止めるシニフィエではなく、積極的に「意味」を発信し、謎かけを楽しむシニフィアン的なテクストなのである。
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Research Products
(1 results)