2010 Fiscal Year Annual Research Report
クルックシャンク研究―挿絵から見る英国ヴィクトリア朝の民衆社会
Project/Area Number |
20520206
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
中村 隆 山形大学, 人文学部, 教授 (00207888)
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Keywords | クルックシャンク / ホガース / 『酒瓶』 / 禁酒主義 / 蝋刻電鋳版画 / 版画媒体 / 中期ヴィクトリア朝 / 物質象徴主義 |
Research Abstract |
平成22年度の主要テーマであるクルックシャンクの連作版画『酒瓶』(The Bottle,1847)を再検討した結果、明らかになったことを以下の3項目にまとめて記述する。 (1)版画を通して「アルコールの恐怖」を語ることは、ホガースに始まり、ローランドソンを経て、禁酒主義者のクルックシャンクに受け継がれた伝統である。飲酒が、暴力、犯罪、狂気、破滅を引き起こす根源の契機となることを描いた『酒瓶』は、ホガースの『ジン横丁』を下敷きとしており、クルックシャンクの図像学の祖形にホガースがいることが再確認できる。 (2)禁酒主義の思想を体現する『酒瓶』で用いられたのは「蝋刻電鋳版画」(glyphography)という版画媒体だった。精密さという点で銅版画よりも劣るこの方式をクルックシャンクが敢えて採用した理由は、安価な版画を直接労働者階級に届けるためだった。労働者階級における飲酒の悪弊を根絶しようとした絶対禁酒主義者(teetotalist)としてのクルックシャンクの目論見がこの版画媒体を選択させたのである。 (3)中期ヴィクトリア朝の文化は、物質に取り憑かれた文明といわれる。それは「もの」によって「もの」の所有者の「経済状態」「階級」「価値観」「精神状態」などを語らせる物質象徴主義の文化に他ならない。屋内外の「もの」に注意深い眼差しを向ける『酒瓶』を見ると、クルックシャンクもまたヴィクトリア朝の物質象徴主義の申し子であったことが明らかになる。
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Research Products
(2 results)