2008 Fiscal Year Annual Research Report
ウィリアム・バトラー・イェイツの夢幻劇における表象構造に関する研究
Project/Area Number |
20520216
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
佐藤 容子 Tokyo University of Agriculture and Technology, 大学院・共生科学技術研究院, 教授 (30162499)
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Keywords | W.B.イェイツ / 詩劇 / サウンド・シンボリズム / 能 / スピリチュアリズム / フォークロア / クフーリン / 表象構造 |
Research Abstract |
本研究の目的は、アイルランドの詩人・劇作家・神秘家であるウィリアム・バトラー・イェイツの夢幻劇における複合的な表象構造を明らかにすることであった。平成20年度においては、『鷹の泉』を取り上げ、イェイツが体系的に用いる「サウンド・シンボリズム」に着目すると共に、「スピリチュアリズム」と溶け合った「アイルランドのフォークロア」との結びつき、さらに日本の「能」との接触を絡めつつ多層的に特徴づけた。研究成果は、国際アイルランド文学協会日本支部のシンポジウム“Dramatic Visions and Invisibilities: Intercultural Irish Theatre"において発表した。 従来、能との比較においては、『鷹の泉』は『養老』との関わりが論じられてきた。本研究では、むしろ『景清』と『熊坂』に注目することで、『鷹の泉』を含むイェイツのクフーリン劇における英雄的選択の問題との共通性が浮かび上がることを明らかにした。霊水のテーマとの関連では、『鷹の泉』におけるクフーリンの選択は、ウィリアム・モリスの『世界の果ての泉』よりはむしろ、J.M.シングの『聖者のお水』の結末と響きあうことを指摘した。さらに、イェイツの『鷹の泉』には、霊水をめぐるフォークロアの諸要素--水の神、妖精、魔力、魚、霊などが形を変えつつもすべて現れており、いわば、憑依した「楽師たち」の歌と語りの中で「泉を守る女」が憑依する二重構造を生み出していることを明らかにした。サウンド・シンボリズムの観点からは、「対抗性の力」を表象する「b音」と「始原性の力」を表象する「f音」に加え、それらの二つの世界の葛藤を仲介する「d音」、また劇の進行に伴い相反するベクトルを持つ言葉に分化していく「w音」及び「g音」の言葉の連鎖が、『鷹の泉』の表象構造を音のレベルで支え、英雄の葛藤に詩的表現を与えていることを解明した。
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Research Products
(1 results)