2009 Fiscal Year Annual Research Report
ウィリアム・バトラー・イェイツの夢幻劇における表象構造に関する研究
Project/Area Number |
20520216
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
佐藤 容子 Tokyo University of Agriculture and Technology, 大学院・共生科学技術研究院, 教授 (30162499)
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Keywords | W.B.イェイツ / 詩劇 / サウンド・シンボリズム / 能 / スピリチュアリズム / フォークロア / ダンテ / 表象構造 |
Research Abstract |
本研究の目的は、アイルランドの詩人・劇作家・神秘家であるウィリアム・バトラー・イェイツの夢幻劇における複合的な表象構造を明らかにすることである。平成21年度においては、『骨の夢』を取り上げ、日本の「能」及びアイルランドの歴史・伝説・物語との関わり、イェイツが体系的に用いる「サウンド・シンボリズム」の技巧という複数の観点から考察した。 従来類似点が指摘されてきた能の『錦木』と異なり、『骨の夢』では、夢のなかであれ、過去の時間と現在の時間が邂逅することで和解がもたらされ、過去の悔恨の時間が贖われることはない。 『骨の夢』のディアミードとダヴォーギラの物語は、史実のほか、伝説のダヴォーギラ像を受け継ぐグレゴリー夫人の劇作『ダヴォーギラ』の意志的な女性像、ダンテの『神曲』で語られるパオロとフランチェスカの恋物語、トロイのヘレン像等が重ねあわされている。兵士の若者に対し二人が求める「赦し」にイェイツが託したのは、「芸術と詩」こそ、キリストの「無限の赦し」に唯一通じる道とするブレイクの思想に共鳴する考え方であった。 しかし若者により「赦し」が拒絶され、劇の結末は両義的となる。それが最もよく表出されているのは、『骨の夢』におけるサウンド・シンボリズムの技巧である。イェイツにおける両極の統合の瞬間の象徴である/f/音が/b/音に転化する、/b/音のなかに/f/音が透かしみられる超越的瞬間はなく、統合と和解を象徴する/d/音が示唆されつつも、両極間の揺れを表現する/w/音、/g/音の他、/g/音を無声化した/k/音、/b/音を無声化した/p/音に加え、和解を阻む/s/音が重要な意味を担っている。『骨の夢』においては、イェイツは自らのサウンド・システムをずらし、極めて複雑な頭韻の複合体のなかに過去の歴史と現在、愛の宿命と政治的選択など、様々なジレンマを表出していることを、本研究により明らかにした。
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Research Products
(2 results)