2008 Fiscal Year Annual Research Report
ヴィクトリア朝文学に見られるイジメの社会的および心理的文脈の研究
Project/Area Number |
20520221
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
松岡 光治 Nagoya University, 国際言語文化研究科, 教授 (70181708)
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Keywords | イジメ / ヴィクトリア朝 / 社会的文脈 / 心理的文脈 / イギリス小説 / ディケンズ / ギャスケル / ギッシング |
Research Abstract |
本研究は、ヴィクトリア朝の文学テクスト-主にディケンズ、ギャスケル、ギッシングの小説-を一次資料とし、そこで明示的/暗示的に描写されたイジメの場面に焦点を定め、19世紀イギリスの時代精神と社会風潮の影響を受けた人間のイジメという言動の法則性を突き止め、そうしたイジメの言説を表出させている社会的および心理的文脈を解明するものである。日本の現代社会におけるイジメは、戦後の日本が先進諸国に追いつけ追い越せの競争原理で猪突猛進し、その抑圧によって蓄積された心理的な歪みが発現したものであり、昔のイジメとは性質が異なっている。戦後の日本とヴィクトリア朝の英国を比較するのは奇異に思えるかも知れないが、我々は日本が百年ほど遅れて英国と同じ轍を踏んでいるという事実に目を向けなければならない。実際、戦後の急速な工業化と都市化を経てからバブル景気を通して平成の大不況に突入した日本人は、産業革命後の鉄道・汽船による交通革命を経て「世界の工場」として経済と金融をグローバルに牛耳った大好況期のあとで、新興国のドイツとアメリカの工業化によって大不況に陥ったヴィクトリア朝の人々と同じ社会問題を幾つも抱えている。イジメをそうした社会問題から派生した複雑な心理的副産物として捉えるならば、ヴィクトリア朝の時代精神と社会風潮という文脈の中でイジメの原因と温床構造を分析することによって、現代の日本社会におけるイジメ問題を解決するための糸口となる示唆的で意義のある結果を導き出せるはずであるし、その分析結果はイジメに関する研究分野の進展への大きな貢献となるに違いない。
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Research Products
(2 results)