2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20520230
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Research Institution | Fukuoka University of Education |
Principal Investigator |
後藤 美映 福岡教育大学, 教育学部, 教授 (20243850)
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Keywords | イギリス文学 / 美学 / ロマン主義 |
Research Abstract |
本研究は、コックニー詩派の詩人たちが、イタリアにおいて本国イギリスの美学的政治的改革を主張したことの意義を考察するものである。本年度は、これまで考察してきたイタリアという文化的、地政学的空間性に付与されたリベラリズムの思想について結論を得るに至り、学会での口頭発表や論文の刊行によってその成果を公表した。 具体的には、1822年にHunt、Byronらが創刊したThe Liberalにおいて企図された、コスモポリタン的リベラリズムの意義と、彼らがイギリスにおける美学的趣味を改革するための布石としたDanteの詩の意義という2つの観点から考察を行った。まず、The Liberalの理念とは、イタリアの文学的豊穣さをイギリスへと移植することによって新しい美的規範を立ち上げ、イギリスの現体制をより理想的な体制へと改革していくことであった。The Liberalの創刊と、イギリスという国家のアイデンティティを形成していく時期とが重なった時、コスモポリタン的視座においてイタリア的文学性を称揚することは、それ自体、閉塞的、保守的イギリスの愛国主義に抵抗するリベラリズムに成り得た。そしてかつて市民の自律性によって共和主義的理想が実現し、ヨーロッパの専制政治への抵抗と解放を謳うイタリアこそが、リベラリズムの磁場となり得た。 また、そのイタリア文学を代表し、近代ヨーロッパ文学の父として、Huntらが範とした詩人がDanteであった。Danteは、故郷のフレンチェを追われ亡命生活を送った政治家でもあり、ラテン語よりもイタリア語という自国の言語と文学を確立した詩人でもあった。したがって、HuntらがDanteの詩を称揚した背景には、Danteの詩を通して、時代の精神性を象徴する近代的な詩を生み出し、ひいてはイギリスの美学的趣味を新しいものへと改革していくという自由主義的改革の思想が存在していたと結論づけた。
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