2011 Fiscal Year Annual Research Report
北アイルランドの詩的想像力――紛争地域における文化・歴史・社会の研究
Project/Area Number |
20520238
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
佐藤 亨 青山学院大学, 経営学部, 教授 (40245337)
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Keywords | 紛争 / 和平プロセス / インターフェイス / 宗派差別 / 想像力 / コミュニティ / ベルファスト / 階級 |
Research Abstract |
今年度は本務校から一年間の在外研究の機会を与えられ、北アイルランド、ベルファストのアルスター大学で、ミューラル(プロテスタント、カトリック宗派別のコミュニティ内に見られる政治・社会的、ないし文化的メッセージを持った壁絵)研究の第一人者ビル・ロールストン教授の指導を受けた。教授とは現地調査を共に行っただけでなく、研究全般への貴重な助言を得た。また、ベルファスト在住を生かし、前半はベルファストの紛争地区を隅々まで歩き、地区ごとの特徴を調査した。それ以外に、毎年恒例の復活祭蜂起やオレンジ・デイ(7月12日)を記念するパレード、そしてまた、今年度に限って行われたタイタニック号造成百周年、ハンガー・ストライキ30周年、「血の日曜日事件」40周年などを記念する北アイルランド特有の行事には時期を選ばず参加した。また、北アイルランドではないが、英国女王のアイルランド共和国訪問に際してのカトリック系組織の抗議活動などもダブリンで調査した。こうした現地調査を重ねるなかで、「インターフェイス」(両宗派のコミュニティが隣接する境界地域)での暴力と交流というテーマが浮上し、ショート・ストランド、ニューロッジ、アードインなど、ベルファストのいくつかのインターフェイスを重点的に調査し、論考にまとめた。また、本研究と直接関係するわけではないが、北アイルランドのデリー出身で、自身、紛争地区で生まれ育ったシェイマス・ディーンの『アイルランド文学小史』翻訳を5月に刊行できたことは大きな達成であった。最後になるが、この一年間のベルファストでの生活を通しベルファストという都市の特殊性をあらためて認識し、そのうえで同じUKの都市で、ベルファスト同様、宗派差別の問題を抱え、またカトリック系住民の比率が高い都市としてグラスゴーとリヴァプールを選んで訪れた。この出張はベルファストをより客観的に考える契機を与えてくれた点、きわめて有意義であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度までの研究成果は論文4件、学会発表2件、図書4件であり、なかでも平成23年3月に刊行した単著『北アイルランドとミューラル』は大きな達成であった。また、今年度はシェイマス・ディーン著『アイルランド文学小史』の翻訳を5月に出版した。アイルランド文学研究の必須文献の一つである本書刊行の意義は大きいと自負する。さらに今年度は本務校から在外研究の機会を与えられ、ベルファストを中心に集中的な現地調査を行うことができ、調査を通して「インターフェイス」という新たな研究の視点を獲得できた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の軸の一つである北アイルランド詩人研究を進めたい。取り上げる詩人としてルイ・マクニース、ジョン・モンタギュー、トム・ポーリン、キアラン・カーソン、メーヴ・マガキアンなどがいるが、まずはマクニースとカーソンについて論考を書きたい。また、北アイルランド紛争の動向にはつねに注意を向けたい。一九九八年の「ベルファスト合意」以降、和平プロセスが進行している当地では、とくにベルファストを中心として、インターフェイスでの暴動や対立が年々激化している。両宗派を分断する壁、「ピース・ウォール」の数は減るどころか、かえって増え続けている。今年度着手したインターフェイス研究は次年度以降も継続し、将来的には単著にまとめたい。
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Research Products
(3 results)