2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20520280
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
桑原 聡 Niigata University, 人文社会・教育科学系, 教授 (10168346)
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Keywords | 庭園 / アイヒェンドルフ / イギリス風景式庭園 / ロココ庭園 / 時の構造 / 天球の音楽 |
Research Abstract |
平成20年度は、ロマン派の時代を中心に庭園の意義を検討した。先ず、看手したのは、アイヒェントルフ文学における庭園モチーフの再検討である。私の従来の研究が明らかにしたのは、アイヒェンドルフの処女長編作品『予感と現前』に描かれるイギリス風景式庭園がピクチャレスク美学に則ったものであり、その装飾過多の「不自然」の故に作者の批判の対象となっていることである。言い換えると、イギリス風景式庭園が「自然」を標榜して成立したにもかかわらず、それが必然的にも左ざるを得ない「人工性」の故に、自然ないしは自然美学という観点から批判されるという典型的な例をアイヒェンドルフに見ることができるということである。この理解からするとアイヒェンドルフが理想としたのは、「汚れなき大自然」ということになるはずである。ところが、アイヒェンドルフ文学において哀惜の念を持って懐かしまれるのはロココ整形式庭園である。これについては、Oskar Seidlin、Walther Rehmの優れた研究がある。ザイトリンは「王冠ユリと紅のぼたん」という詩の固有の時間構造を指摘し、それを、それが挿入されている、それまで十分に研究されてこなかった作品『誘拐』の中に位置づけたのはザイトリーンの功績であう。だが、ザイトソーンは、この詩の時間構造をキリスト教的救済史観から解釈するために、この詩がもつ普遍性を狭めしまっている。ロココ文化、とりわけロココ庭園がアイヒェンドルフにとって楽園としての幼年時代と密接に関わっており、それが作品に残した痕を丹念に跡づけたのはレームである。しかし、レームの欠点は、アイヒェンドルフの幼年期の思い出と作品を無媒介に結びつけ過ぎている点にある。本年度の研究では、アイヒェンドルフ自身はロココ趣味及びロココ庭園を好まなかったと明言しているにもかかわらず、アイヒェンドルフ文学においては、ロココの廃園一時の破壊力と過去の現前が同時に表現され得るには、これは廃園でなければならない-は、「時」がその本質を現す特別の場であることが明らかにした。この成果については平成21年度に論文として発表する予定である。 また、平成20年度は、ノヴァーリス文学に現れる庭園分析と断片における庭園観再構成に着手した。平成21年度には、ノヴァーリス文学における人工的庭園造形がホフマンを介して、19世紀末文学に受け継がれ、ゲオルゲ、シェアバルトにつながっていることを明らかにする予定である。
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