2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20520291
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
村瀬 延哉 Hiroshima University, 大学院・総合科学研究科, 教授 (10089097)
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Keywords | 仏文学 / コルネイユ / 17世紀 / 演劇 / フランス社会 |
Research Abstract |
本年度は、コルネイユ劇にフランスの社会的、文化的現実がどのような形で投影されているかを明らかにする目的で、主に『ポリュークト』までの作品を取り上げた。コルネイユの初期喜劇は、若い男女の恋の駆引きや行き違いをテーマとし、概ね二組の幸福なカップルの成立で終わる点で田園劇の作劇法を踏襲している。しかし、同時に彼の作品は、登場人物の洗練された会話中にフランス社会の切実な現実を反映しており、リアリティのある風俗喜劇に近いものになった。具体的には、持参金や官職等の経済的条件に左右される結婚の厳しい 実態、強い父権と恋愛に起因して頻発する婦女誘拐、また当時の教養ある若者を捉えたりベルタンやプレシオジテの思想、パリの都市生活の描写等である。「ル・シッド論争」におけるコルネイユの敗北は、『アリストへの弁明』で作家としての独立不羅を明言した彼の姿勢が、リシュリューによって否定されたことを意味する。そのため彼は、悲劇の主題の選択でも宰相の意向を汲んで、フランスが直面する国家的課題を取り上げるようになった。しかし、コルネイユは様々な立場の人物を登場させ、複眼的視点からテーマを掘り下げることで、戯曲がプロパガンダに堕す危険を回避した。劇中の価値観の対立は特に男性と女性の登場人物の間に生じることが多い。その際、オラースやポリュークト等の男性にとっては《gloire》が最大の価値を表わすキーワードであるのに対し、女性の場合は主に《devoir》がその役割を果たし、人間的な愛情を尊重する点で男性達と異なる。
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Research Products
(2 results)