2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20520291
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
村瀬 延哉 広島大学, 大学院・総合科学研究科, 名誉教授 (10089097)
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Keywords | 仏文学 / コルネイユ / 17世紀 / 演劇 |
Research Abstract |
本年度はコルネイユの文学創造と政治、文化等のフランス社会の状況の関係を解明する目的で『エディップ』以降の後期作品を取り上げ、必要に応じてそれ以前の彼の戯曲との比較を行った。また、戯曲中の《gloire》等のキーワードの用法にも注目して分析を進めた。後期作品は大部分が王侯貴族による王位と結婚を巡る策謀をテーマとしている。これは手法的には若者達の恋の駆引きを描いた彼の初期喜劇への回帰であるが、同時に所謂四大傑作以降政治劇を志向するようになったコルネイユにとって、安定した絶対王政期における宮廷人達の重大な関心事である政略結婚に照明を当てた、彼なりのリアリズムの試みであった。しかし新しい世代はコルネイユの形を変えた政治劇に対し、三十年戦争やフロンドの乱の頃の観客のような熱狂を示す事はなかった。こうした時代精神の変化は、ジャンセニストのニコルらがコルネイユ劇の英雄達を傲慢で真実味に欠けると批判した事実にも現れている。キーワードの観点からは、四大傑作では国家・公共の大義に関わる政治劇の要素と家族的な情愛のドラマがうまくミックスされ、男性主人公が追求する《gloire》と、家族の絆に忠実であろうとするヒロイン達の《devoir》がせめぎあって、観客の関心を満足させる普遍性を持った戯曲が生み出されていた。しかし後期作品になると、政治的栄光や己の名誉に固執する多くのヒロインが男性同様《gloire》を追求するようになり、四大傑作が有していた幅広いダイナミズムが失われる結果となった。これが彼の後期作品と観客との間に乖離を生じさせた一因といえる。
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Research Products
(1 results)