Research Abstract |
日本手話(以下JSL)では,動詞の主語や目的語にあたる手形(以下CL)が動詞に抱合されることがあるが,その最も典型的なパターンは,様態動詞とCLを含む経路動詞の組み合わせによる連続動詞構文(以下,SVC)である.しかしSVCなら常にCLを抱合するのか,またそもそもどのような動詞の組み合わせがSVCを生み出すのかについては未だ研究も,研究対象としての映像データさえもない. 本研究では,まずJSLを第1言語とするサイナーによる,自然な語り,日本語例文のJSLへの翻訳,JSLの自然な会話,等複数の方法を用いて,研究対象として十分な映像データベースを撮影・作成した. 次にこの中から,V1+V2の動詞連続を持つ例文を観察し,SVCと類似構文を峻別し,移動動詞の内でも最も基本的な「行く・来る」に相当するJSL語彙をV2にとる文を中心に分析した.その結果,今里(2009,及び印刷中)では以下のことを明らかにした. JSLのSVCとは,V1に否定辞やアスペクトなどの要素は付くことはできず,V1とV2の間に別の語や「間」が入ることがない形式である.V2が「行く・来る」の場合,V2が文法化し「命令・勧誘」等の意味を表す要素となる.その際,「来る」より「行く」の方が圧倒的に文法化しやすい.さらにV2が移動動詞以外でも,連続動詞構文が存在し,かつV2が文法化する例が多数ある. JSL映像データベースを作成・分析し,その連続動詞構文のシステムを明らかにする事は,すでに蓄積された音声言語データとの比較を可能にし,文法化の生成過程や機能的要因追及を通じて,一般言語学理論へと貢献できるだろう. [参考文献] 今里典子(2009)「日本手話の連続動詞構文」,神戸高専研究紀要第47号,137-142. 今里典子(印刷中)「行く・来るを含む連続動詞構文:日本手話/日本語対照研究」
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