2009 Fiscal Year Annual Research Report
統治空間としての城の生成と機能をめぐる歴史考古学的研究
Project/Area Number |
20520652
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
堀越 宏一 Toyo University, 文学部, 教授 (20255194)
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Keywords | 中世フランス / 城 / 大広間 / 礼拝堂 / 住空間 / フィリップ2世 / 写本挿絵 |
Research Abstract |
3年間に及ぶ研究期間の2年目にあたる2009年度には、フランスで最も早く、10世紀末から11世紀初めに石造の城砦が登場したロワール地方に南接する、ポワトゥー地方をフィールドとした。2009年9月には、同地方に散在する11~12世紀の城砦を実地調査し、主要な石造天守塔の遺跡を実見することが出来た。代表的な城は、ルーダンLoudunとニオールNiort、ショーヴィニーChauvignyの天守塔であり、いずれも方形天守塔の姿をよく残しているが、ニオール城では、方形天守塔の四隅が円筒形の小塔で防護されるとともに、天守塔自体が二つ設けられて、並置・連結されるという形になっていて、城砦設計上の発展的工夫が観察された。 このほか、ティフォージュTiffaugeでは、敷地内に散在する城の遺構のなかでも、とくに大広間の暖炉部分が非軍事的な建物の姿を示していて、興味深かった。またこれらの方形天守塔が、フランス国王フィリップ2世の治世に、より防御に優れた円筒形に形を変えていった過程に関しては、論文「中世フランスにおける石造の城の起源-王宮から天守塔へ-」(千田嘉博・矢田俊文編『都市と城館の中世』高志書院、2010年、所収)において総括した。 他方、軍事ないし統治、城主の住居、礼拝室などに関わる、城の多角的機能の史料として、写本挿絵mniaturesに注目し、P・マヌ教授(フランス・歴史研究センターCNRS)の論文「城にいる領主を描いた中世の図像」(小島道裕編『武士と騎士』思文閣出版、2010年、所収)を翻訳出版した。そこで論じられている城の大広間にいたる階段、大広間の調度品、大広間で開催された宴会とそこでの娯楽、私的空間としての寝室と中庭をめぐる内容は、それらの使用と参加が貴族身分の表現としてコード化され、中世ヨーロッパ貴族の社会的威信を表現するものとなっていた。中世ヨーロッパの城が有していた社会的機能という問題に関しては、これらの論点をさらに具体的に、写本挿絵だけでなく考古学的遺構も含めて、より多くの具体例に基づいて考察することが重要であるということを考えさせられた。
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Research Products
(6 results)