2010 Fiscal Year Annual Research Report
高齢化社会における老年世代の生きがいと技能の継承をめぐる民俗学的研究
Project/Area Number |
20520720
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Research Institution | National Museum of Japanese History |
Principal Investigator |
関沢 まゆみ 国立歴史民俗博物館, 研究部, 准教授 (00311134)
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Keywords | 高齢者 / 家族 / 介護 / 医師 / ナラティブホーム / ナラティブノート / 患者の生活史 / 語り |
Research Abstract |
家族の介護力の低下が指摘されているが、高齢者の医療に直接関与している医師たちがその問題に積極的に関わっている事例の調査を開始した。一つは、中山間地農村の栃木県芳賀郡市貝町の事例である。市貝町北部の続谷地区で昭和昭和47年(1972)から父親の跡をついで往診を行なうなかで、家族が勤めに出た後、一人ハナレで寝ている高齢者たちの現状を目の当たりにして、何とかしなければという思いから、特別養護老人ホーム杉の樹園(平成3年竣工)を建設するにいたった故倉持玄白医師(昭和10年生まれ)についての、当時、立ち上げに協力した仲間たちや跡を継いでいる息子夫婦への聞き取りを行なった。僻地医療や往診で地域の事情をよく知っている医師が、介護の場を、家庭から施設へと移そうとしたのである。しかし、2010年の聞き取りでは、まだまだ同じ町内の施設に親を入れることへの抵抗感が強いことも明らかになった。家族の介護力の低下という現実と、介護や家族(特に嫁)がするものという意識とのズレが注目された。この問題についての、もう一つの事例は、2010年4月に砺波市にオープンしたナラティブホームの事例である。佐藤伸彦医師が「家庭のような病院を」という理念のもと、家で過ごすように自由で、しかも診療が行なわれるので安心できる高齢者の施設である。しかも、ナラティブノートが患者一人ひとりに用意され、職員たちが、患者との会話や患者の様子について、メモをとりためていく。佐藤医師はナラティブを「患者の生活史」と位置付け重要視している。実際に、そのノートを読むと、生と死とのぎりぎりのところにいる患者たちが、語ることで自己表現し、生きた証を残しているように看取できる。この事例からは、生と死と語りという問題をあらためて考えさせられる。
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