2010 Fiscal Year Annual Research Report
公正価値の適用領域の拡張と短期指向経営-経営者行動への影響の考察-
Project/Area Number |
20530407
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
徳賀 芳弘 京都大学, 経営管理研究部, 教授 (70163970)
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Keywords | 公正価値 / 純資産簿価モデル / Value in Use / Mark to Model / 自己創設のれん / IFRS / IAS / SFAS |
Research Abstract |
3年間の研究で次のような研究実績を上げている。 (1) 債務者企業の信用リスクの変化を金融負債の評価に反映することの意味および是非を論じた。負債の評価における信用リスクの反映とその原因(オフバランスののれん価値の減損か、オンバランスの資産の減損か)との関係を理論的に明らかにした。成果は、「公正価値会計の行方」(『企業会計』、2010年1月)及び「負債と経済的義務」『体系現代会計学I』(2011年4月刊行)で示している。 (2) 非金融負債の公正価値評価の意味と是非を、資産除却債務の評価および引当金の期待値・DCF評価の意味を明らかにした。成果は、「負債と経済的義務」(同上)で示している。 (3) IASB/IASとSFASの個々の会計基準の内容を調べることによって、IASBもFASBも、少なくとも理論上は、純資産簿価モデルを指向していることを確認した。成果は、「会計利益モデルと純資産簿価モデル」(『企業会計』2011年1月)で示している。 (4) 過去の実証研究を渉猟することによって、経営者が公正価値評価によってもたらされるボラティリティを軽減するために、機会主義的な裁量行動をとることについての多数の経験的な証拠を得た。また、その裁量行動が可視的でないため、会計情報の価値関連性が低下しているという経験的な証拠も多く示されている。さらに、会計測定値のボラティリティが高まることから契約履行支援機能においても問題が発生していることを示す経験的な証拠も示されている。 以上より、現在のところ、公正価値評価、とりわけ、競争的な市場がない場合のMark to Modelによる評価や使用価値(value in use)の使用は、会計測定値の硬度の低下をもたらすと共に、不必要なボラティリティを持ちこむため、投資意思決定支援と契約履行支援において問題があることが明らかとなった。IASBもFASBも軌道修正が必要となるであろう。
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