2009 Fiscal Year Annual Research Report
後期近代における社会的排除とアイデンティティ-フランスにおける都市底辺層
Project/Area Number |
20530451
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
稲葉 奈々子 Ibaraki University, 人文学部, 准教授 (40302335)
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Keywords | 社会的排除 / 社会運動 / フランス / 都市下層 / 後期近代 / 移民 / 国際移動 / アイデンティティ |
Research Abstract |
2009年度はパリ市を中心とした貧困をめぐる社会運動団体を、「社会運動インダストリー」の概念を使って整理すべく、聞き取り調査を行った。それによって、同じく貧困をテーマにする運動であっても、いかにして複数団体が存在するようになり、ときに、協同よりは競合が起きるのかを明らかにすることができる。競合は、当事者の参加や決定への関与の主体性の度合いや、その選好によって異なることが明らかになった。また、当事者が貧困状態を自己責任と考えていない移住労働者は、参加への積極性の度合いが高い。当該社会に生まれ育った者の場合は、貧困を自己責任として引き受けるメカニズムを内面化する度合いが高いことも明らかになった。これらの参加者の運動への関与の在り方の好みや、置かれている状況によって、どの運動団体を選ぶかが異なってくる。 調査対象となった「住宅への権利運動」の場合、移住者が多数を占めるがゆえに、出身国での中間層的なアイデンティティを保持している者が多く、そのミドルクラスの地位から脱落しないようにすることが、ラディカルな運動に参加する動機となっていることがわかった。 住宅への権利運動は、戦略のラディカルさに注目されることが多いが、当事者の認識としては、ミドルクラス的な地位の保持という逆説的な状況が生じている。一方、比較対象で調査した日本の事例では、運動の戦略は、比較的穏健であったり、世論に受け入れられやすいものである場合が多いが、運動の担い手は、かならずしもミドルクラス的地位におかれておらず、ミドルクラスへの統合を求めているわけでもない。むしろ協同組合など、市場主義にとりこまれないオルタナティブ性を有していることがわかった。
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Research Products
(11 results)